円安とインフレーション


円安と超低金利政策の弊害

公開: 2022年4月20日

更新: 2023年1月1日

あらまし

2013年から、日本の中央銀行である日本銀行は、9年に渡り「超低金利政策」を採り続けている。日本銀行は、ほとんど無利子で、民間の銀行に資金を提供し続けている。その結果、日本社会での長期金利は、ほぼゼロになっている。これは、日本政府が国債を発行する時、利払いを低くすることを可能にするので、国債を発行して、国家の社会基盤作りの投資をしようとする政府には、短期的には有利な状況を作り出す。

しかし、日本政府は際限なく国債を発行し続けることができるのだろうか。日本政府が国債を発行すると、政府の借入金が増える。現在、その借入金の総額は、日本の年間国内総生産の約2倍、2年分に相当する。国債の発行残高が一定水準を超えると、市場で売買される国債の価格は、発行時の額面額以下で売買されるようになる。そのため、国債を償還する時の利率は、それに応じて上昇する。利子を上げなければ、国債の価格が下がるからである。

このような市場の調整機能によって、各国の国債は売買価格が決まり、それによって各国の長期金利が決まる。長期金利が上昇すれば、国債を発行した政府の利払いが増加するので、その政府は利払いが困難に陥る。つまり、国家の破産である。そのような長期金利が上昇を始める水準が、どこにあるのかは不明で、債権市場によって決まる。日本の国債は、まだその水準に達してはいないと判断されている。とは言え、その水準に近づいている。2022年の円安は、その兆候を示している。

円安と超低金利政策の弊害

2013年から、日本の中央銀行である日本銀行は、9年に渡り「超低金利政策」を採り続けている。日本銀行は、ほとんど無利子で、民間の銀行に資金を提供し続けている。その結果、日本社会での長期金利は、ほぼゼロになっている。これは、日本政府が国債を発行する時、利払いを低くすることを可能にするので、国債を発行して、国家の社会基盤作りの投資をしようとする政府には、短期的には有利な状況を作り出してきた。日本社会では、その政府は多額の国債を発行し続け、その歳入(税収)を上回る国家財政を投入して、景気の浮揚を図ってきた。しかし、9年間、その政策を続けても、景気は良くなっていない。

日本政府の借入金残高(借金の総額)は、2022年の時点で、1,000兆円を超えている。日本の人口が約1.2億人なので、日本政府が日本の国民一人当たりに対して、約830万円の借金をしていることになる。政府がこの借金を返済できなければ、日本の財政は破たんし、全ての国民が1人当り約800万円を返さなければならない。今は何も問題がないかのように見えるが、それだけ、国民の日々の生活は苦しくなる。このような理論から、国が発行できる国債の発行残高は、その国の年間の総生産額の10分の4程度までと考えられている。国家の財政が破たんしたギリシャの場合、2009年の10月の時点で、国債の発行残高は国内総生産額のほぼ1.5月分(年間総生産額の約8分の1)であった。ギリシゃの場合、EU加盟国であったため、ギリシャ国債の通貨はユーロで発行されていた。このため、ギリシャは発行した国債の償還ができなくなった。そのために、EUの通貨、ユーロの為替レートは他の通貨に対して下落した。

各国の政府は際限なく国債を発行し続けることができるのだろうか。ギリシャの例を見ても、それはありえないことである。日本政府が国債を発行すると、日本政府の借入金は増える。現在、その借入金の総額は、日本の年間国内総生産の約2倍、2年分に相当する。国債の発行残高が一定水準を超えると、市場で売買される国債の価格は、発行時の額面を下回る価格で売買されるようになる。その結果、国債を償還する時の利率は、それに応じて上昇する。利子を上げなければ、市場での国債の価格がさらに下がるからである。

このような市場の調整機能によって、各国の国債は売買価格が決まり、それによって各国の長期金利が決まる。長期金利が上昇すれば、国債を発行した政府の利払いが増加するので、その政府は国債の利払いが困難になる。つまり、国家の破産である。そのような長期金利が上昇を始める水準が、どこにあるのかは不明で、債権市場によって決まる。日本の国債は、まだその限界水準に達しているとは判断されていない。とは言え、その水準に近づいている。そのことを示す、さまざまな兆候が、日本経済に起き始めている。

そのような問題の一つが、日本銀行が超低金利政策を止められない局面に入っていることである。超低金利政策を続けた場合、インフレーションが進み始めた世界中の先進諸国が、低金利政策を止め、金融引き締め政策に転換すると、日本の長期金利との金利差が拡大するため、国債為替市場で円安が進む。円安が進むと、海外から日本へ輸入されれる物品やサービスに支払う価格が上昇する。つまり、インフレーションが進むのである。このインフレーションは、日本銀行や日本政府が管理できるインフレーションではない。日本円の為替レートによって引き起こされる「円安」インフレーションである。

例えば、日本は原油のほとんど全てを海外の産油国からの輸入に頼っている。原油は、様々なエネルギー源として利用されている。発電や、自動車やトラックを動かすための、ガソリンやディーゼル燃料を作るための材料であり、そのエネルギーを利用して、様々な物品が運ばれている。つまり、原油価格が上昇すると、消費者が購入する全ての物品の価格が上昇する。この価格の上昇が、物価の上昇を招き、インフレーションを発生させる。さらに、輸入される全ての物品の価格が上昇する。日本社会では、食料品のほとんどが輸入されているので、ほとんど全ての食料品が値上りする。

かつての日本経済のように、日本で生産される工業製品のほとんどを輸出している場合、輸入品の価格が上昇しても、円安で輸出品の価格が下がるので、全体でみれば円安の効果は、相殺できる。しかし、現在の日本経済は、国内総生産(GDP)に占める輸出の比率は、5分の1以下になっている。さらに、輸出製品を生産するために使われる部品などは、今では外国で生産されている。そのような輸入部品などの価格も上昇する。円安は、今や、日本経済を弱体化させる効果を持つ。

それでも日本銀行は、超低金利政策を止めることができない。その理由は、超低金利政策を放棄すると、日本の長期金利が上昇するからである。長期金利が上昇すると、これまでに日本政府が発行した国債に対して、長期金利に連動して、償還時の利子支払いが上昇するからである。政府の年間予算額は約100兆円であるので、償還しなければならない国債は、国内総生産(GDP)の2年分、それは政府予算の10倍に相当する。それに利子が上乗せされるので、明らかに政府の支払い能力を超える。その分に相当する日本円を日本銀行が発行すれば、円は暴落する。ギリシゃの財政破たんと同じである。日本銀行は、超低金利政策から抜け出せない。

もう一つの問題は、日本銀行が政府発行の国債を大量に買い付ける政策を止められなくなっていることである。日本のバブル期に民間銀行が、土地の購入資金を大量に貸し出し、バブル崩壊後に大量の不良資産を抱え、その後遺症からの回復に苦労した。それと同じことが、日本銀行に起こる可能性がある。日本国債の暴落は、日本銀行として絶対に避けなければことである。バブル崩壊後の銀行を助けるために、日本銀行は、低金利で民間銀行へ大量の資金を供給し、民間銀行の経営破たんを避けるように支えた。同じように、低金利であれば、日本政府にとっては、大量の国債を発行して、低利で資金を獲得する合理的な方法である。そのためには、日本銀行が超低金利政策を継続し、市場で売られる国債を買い支える必要がある。

一般には、ある国が大量の国債を発行すると、市場での国債の需要が減り、国債の金利を高くしなければ売れなくなる。これによって、国債の大量発行は政府にとって、合理的な方法ではなくなる。通常は、これによって政府による国債発行残高は一定水準以上にはできない。これが、通常の国債発行である。日本政府が、導入した方法は、国債の金利を高めることがないように、日本銀行が政府が発行した国債を買い入れる方法である。この方法だと、政府が発行した国債は、市場に出回らないため、市場での金利は上がらない。これまで、日本政府は、償還時の利子を考慮せずに国債を発行し続けてきた。その結果、日本政府の国債発行残高は、国内総生産の2年分にまで膨れ上がった。

日本銀行が長期金利を上げることができれば、日米の金利差が小さくなり、「円安」は解消できる。しかし、上に述べた理由によって、日本銀行が長期金利を上げると、日本政府の国債償還時の利子が膨大になり、財政破たんする。現在の「円安」は、黙認せざるをえない状況なのである。日銀は、日本の国債の利率が0.25パーセントに達した場合、日本国債を無制限に買い入れると宣言した。これは、日本の国債の利子率を0.25パーセント以下に維持して、政府の財政破たんを救うための施策である。しかし、日本銀行が買い取り、保有する国債は、ますます増大し、通貨発行銀行の日本銀行が、日本政府が発行した国債のほとんどを保有する結果になる可能性がある。それは、国債が暴落すると、日本銀行の不良資産が増大し、日本銀行が発行する通貨、円の信用を低下させる。それは、さらなる円安を引き起こす。

(つづく)