更新: 2024年10月27日
2022年の後半、日本は、実際に急激な円安に見舞われました。その背景と、結果として日本社会が直面した問題についてまとめます。
2022年、本記事の執筆直後から、日本円の為替相場は、米国中央銀行の物価高騰を抑えるための長期金利引き上げが続いた結果、110円台後半から徐々に下がり続け、2022年10月の半ばには、150円に迫ってゆきました。から、日本の中央銀行である日本銀行は、9年に渡り「超低金利政策」を採り続けている。その結果、日本の国内では日本円の下落に関する議論が沸き上がり、国会においても黒田日銀総裁の責任を問う議論も行われました。黒田総裁は、日本における経済状況を考えると、金利引き上げによる、景気後退の危険があるとの見解を示しました。
日本の経済専門家の中では、黒田日銀総裁の任期が終わる2023年3月末までは、日本銀行は低金利政策を続けるであろうとの見方が一般的でした。2022年12月になって、日本銀行は、それまで0.25パーセント以下としていた長期金利の振れ幅の上限を、0.5パーセントを上限とすることを認めることを宣言しました。これは、実質的な長期金利の利上げです。この政策の変更は、米国の金融界の専門家からも、それまでの日銀の低金利政策が誤りであったとの批判が出始めていたことも影響したと考えられます。
日本銀行による実質的な長期金利の利上げによって、日米の長期金利の差が縮小したため、2022年12月の中頃から、為替相場市場では、円高の流れが生まれ、1ドル140円から135円ぐらいまで、円高になりました。この背景には、アメリカ社会における高い金利による金融の引き締めで、景気が後退すると考える人々が増加しつつあることも影響しているようです。つまり、市場の為替相場は、長期金利の差だけで決まっているわけではありません。日米両国間の景気の違いや、為替取引を行っている人々の「思惑(おもわく)」も影響しています。
上に述べた日本銀行の金利政策の変更に伴い、市中での日本国債の取引における国債の実質金利が上昇を始めました。2023年1月5日、日本政府(財務省)は、この市場における国債の実質金利の上昇を反映して、10年もの国債の額面の金利を、従来の0.2バーセントから、0.5パーセントに上げることを発表しました。これによって、日本政府が国債の償還時に支払う利払いも上昇します。これは、政府の財政を圧迫しますが、長期的な見方からすれば、経済原則に従った、正しい決定だったと言えます。これまでの国債の金利が0.2パーセントに抑えられていた期間は、約8年間だったそうです。
現在の国際的な経済環境から見ると、長期的に、このような利上げは、一定期間続くと考えられます。その結果、日本政府の国債償還時の利子負担が増加します。この政府歳出の負担をするための財源は、従来のやり方を踏襲すれば、新しい赤字国債を発行して、埋め合わせをすることになります。その場合、結果的に国債の発行残高は膨らみますから、将来の国民が負担しなければならない税額は増大します。それを避けるためには、大量の円を発行して、埋め合わせをしなければなりません。それをすれば、結果として国民は、インフレーションに苦しむことになります。
もう一つの方法は、現在の国民が国債償還時の利子負担を引き受けて支払う方法です。岸田政権が検討している所得税などの増税は、そのための準備とも考えられます。現在を生きている国民にとって、増税は痛みを生むので、国民からは嫌がられるでしょう。政権政党の議員の中には、選挙における国民の反発を恐れて、「増税ではなく、国債で」と主張する人々もいるようです。2023年は、この問題が国会で議論されるでしょう。
2023年1月6日の日本国内の金融上では、1月5日の財務省の10年物国債の利上げの発表を受けて、早くも日本国債の市場での売買価格が下がりました。従来では、額面価格に対して年率0.2パーセントの利子分を差し引いた金額に相当する価格で売買されていた国債が、1月6日の市場では、年率0.5パーセントの上限の利子率を差し引いた価格で売買されました。これは、日本国債の値下げと同じことです。同じ額面の国債でも、日本国政府が得られる実質的な資金は、0.3パーセント分だけ減ることになりました。つまり、国債の売買価格が少し下がったことを意味します。
2023年1月16日の金融市場では、日本国債の利率は0.5パーセントの上限を実質的に上回り、1月の日本銀行金融政策決定会議で、日本銀行はさらなる金利水準の引き上げに踏み切るであろうとの予測から、外国金融機関は日本国債を売り込み、市場での日本国債の金利は、0.51パーセント前後で推移しました。米国為替市場では、米国における物価上昇は落ち着き始めたとの観測から、FRBによる長期金利の上げ幅が小幅になるとの予想から、ドルが売られ円が買われる展開となっており、円ドルの為替レートは、1ドル127円前後にまで円高に戻っています。それでも、円安であることには変わりません。
2022年12月の日本における物価は、2021年12月の物価と比較すると、10パーセントを少し上回る水準になりました。米国の物価上場が10パーセントを下回る予想であることから、10パーセントを上回る物価上昇は、世界的に見ても高水準です。日本では、米国などとは違って賃金上昇がほとんど観測されていないため、この物価上昇は、円安と世界的な物価上昇の結果と言えます。2022年後半の急激な円安の影響が、日本国内の物価に影響し始めたようです。原材料の上昇や、エネルギ関連の上昇、賃金の上昇を売上価格に反映し、国内の物価を適正に上げてゆくことが必要なようです。
国内の経済を成長させることを目的に導入した、円安誘導と超低金利政策が裏目に出たようです。国内の物価を上昇させたとき、従来のマクロ経済理論では、インフレーションを起こさないように長期金利を上昇させるのですが、日本政府の国債発行残高が、日本政府の財政を圧迫するため、簡単には金利を上昇させることはできません。安易に金利を上昇させると、逆に極端な円安を引き起こしかねません。難しい局面になってきました。
2023年7月、春闘が終わって、大手企業の従業員の給与は、かなり上昇しました。さらに、円安の影響もあり、国内の物価は、2パーセントを大きく超えて上昇しました。さらに、国内の最低賃金が時給1,000円を超える水準に引き上げられました。2023年7月28日、植田日銀総裁は、日本国内の長期金利が、これまで0.5パーセントを超えないように、日本銀行が日本の国債の市場価格が下がると、無制限に買い入れる方針を撤回し、1.0パーセント程度までの長期金利上昇まで、直接的な対応をとらない政策に変更しました。国債の利率が上がることを容認したわけです。この政策変更を受けて、為替市場では、円が売られ、強いドルが買われ、1ドル141円を上回る取引が続いています。
日本銀行のこの長期金利の緩やかな上昇を許す態度は、日銀が保有している国債の発行残高に占める割合が、50パーセント以上になっている現状から考えると、国際市場の関係者には、日本銀行が、現状を是正して、正常な状態に移行させるようにする明確な意図を示しているとは、読み取ることはできないでしょう。政府の国債償還のための財政負担は少し重くなりますが、長期的に見た日本円の暴落を防ぐと言う意味では、これまでの円安を是認し、日銀が国債を無制限に買い取るという、世界的にも例のない政策を続けるよりも、日本経済の緩やかな回復をもたらす効果を期待しているように見えるでしょう。
2023年10月末、中東イスラエルのガザ地区に閉じ込められてきたパレスチナ難民の武装勢力の一つであるハマスの戦闘員が、ガザに隣接する非武装地帯に建設されていたイスラエル人の入植地域に侵入し、住民を殺傷し、一部の住民を人質にした事件をきっかけに、イスラエル正規軍との戦闘が始まりました。イスラエル政府は、「ハマスの組織をせん滅するまで、戦闘を続ける」、「そのために、地上部隊をガザ地区へ送り込む」と宣言しました。ハマスの軍事行動を「テロ」であるとして、イスラエルの軍事行動を指示した米国などのヨーロッパ諸国も、拡大し続ける戦闘と、多数のガザ市民が犠牲になっている現状を見て、イスラエルの軍事行動に歯止めをかけようとし始めました。
このガザでの戦闘は、ウクライナでの戦闘と、同時並行で進んでいます。そのため、世界経済に与える悪影響が心配されています。例えば、国際市場での原油価格の高騰が引き起こす可能性のある、物価の高騰と、それに続くインフレーションです。10月に物価高騰が少し鈍化したように見えたべ国内でのインフレーションの波が、再燃する危惧も出てきました。それを考慮した10月末の日本銀行政策決定会議では、日本国債の金利上昇を1パーセントを超える水準まで、認めることを決定しました。
しかし、国際金融市場では、この決定を十分ものとは認めず、日本円の対米ドル為替レートは、上昇し続け、1ドル150円の大台を超えました。日本政府は、「急激な円安は好ましくない」との理由で、「ドル売り円買いの為替介入も辞さない」との見解を発表しました。また、日本銀行の発表を受けて、日本国債の市場価格は少し下落し始め、利率が0.9パーセントを上回っています。1パーセントを超えるのも、時間の問題でしょう。これは、市民生活では、住宅ローンの金利が上昇し、家庭では、ローン返済の経済的負担が増えることを意味します。
2024年2月22日、東京証券取引所は、日経平均株価の終値としては、史上最高値の39,000円を突破して取引を終わりました。これは、1991年以来の高値です。しかし、この間、ニューヨーク証券取引所における平均株価は、約13倍にまで高まっています。日米の経済成長の差は、明らかです。2024年2月末における円ドル為替レートは、1ドル150円前後で推移しています。円安状態が続いていると言えます。AI利用の期待から進む半導体生産企業株の高騰によるニューヨーク株の株高、日米の金利差による円安、輸出企業を中心とした日本企業の好調な決算予想、春闘後の賃上げに期待した日本経済の回復期待などが、現在の東京証券取引所の株高の原因のようです。
これらの要因の中で、最も重要な要因が、ニューヨーク証券取引所の39,000ドルを超える平均株価と、円安です。これは、経済がグローバル化した結果、東京証券取引所の平均株価が、ニューヨーク証券取引所の平均株価をその時点での円ドル為替レートで円変換した価格を基本として変動するようになっているからです。円ドル為替レートに大きな変動がなければ、ニューヨーク証券取引所の平均株価が4万ドルを超えるのは明らかなので、東京証券取引所の平均株価は、近い将来、4万円を超えるでしょう。しかし、米国連邦通貨準備委員会(FRB)がドルのインフレーションを警戒して、長期金利の引き下げの決定を行わなければ、市場の景気後退予想が強まり、平均株価の伸びは鈍化し、円高傾向も出ると考えられるので、東京証券取引所の平均株価の上昇は止まり、下落する局面になるでしょう。
長期的な視野で考えると、日本社会における人口減少と、高齢化の進展に加えて、日本国債の金利上昇が起きると、さらなる円安現象を招き、日本経済に大打撃を与えるリスクが表面化するでしょう。日本社会は、労働人口の継続的な減少を食い止め、政府の赤字財政体質を立て直し、早急に日本国の経済を正常化しなければなりません。今や、日本経済は、人口8,000万人のドイツ経済よりも経済規模が小さくなっています。さらに、近い将来、急成長し続けているインド経済にも追い抜かれるでしょう。根本的な改革が必要です。
2024年3月19日、日本銀行は、金融政策決定会合を開催し、2007年から継続していた大規模金融緩和の解除を決定しました。その理由を、植田総裁は、「賃金と物価の好循環が確認された。」と述べました。これは、長期金利をマイナス金利から、通常のプラス金利に戻す基準として、以前から日本銀行総裁が述べていたことでした。植田総裁は、日本銀行のこの異常なマイナス金利政策を、正常な状態に戻す機会を以前から模索していたようです。今年の大手企業の春の賃上げ水準が、5パーセントを上回る予想だったため、「2パーセント以上の物価上昇と賃上げ」を「確認できた」としたようです。
一般的な経済理論で考えると、この大規模金融緩和の解除は、日本における長期金利の上昇を招くと予想され、米国の長期金利との差が縮小すると考えられるため、為替市場では、「円高、ドル安」の傾向に動くはずでした。しかし、その後の国際為替市場の動向は、この日本銀行の発表を受けても、円安は修正されず、150円台をすこし上回る円ドル・レートで推移しています。これは、日本銀行が大規模金融緩和を辞めたとはいえ、長期金利を「1バーセント台へ戻すことはない」と、国際金融市場の関係者が考えているからでしょう。その理由は、日本銀行が17年間の間に買い込んだ、日本国国債を市場に放出すれば、国債の市場価格が暴落し、日本政府は、その利子の返済に膨大な負債を抱えることになると予想され、簡単には金利を上げられないと考えられているからでしょう。植田総裁の苦悩は、まだ続くようです。
2024年4月16日、為替取引市場では、1ドル154円を越え、155円に迫る円安になりました。為替市場では、155円の水準に至るまでは、日本政府の円買い介入はないと見られているようです。1ドル154円台の為替水準は、1990年頃からの34年ぶりの円安水準です。当時の日本経済は、世界一の水準でした。この後、米国は、円高・ドル安ヲ認め、円は、1ドル100円以上の円高になってゆきました。日本のGDPは、2000年頃までには、世界一位の水準にまで拡大すると考えられていました。しかし、その後、円高により、日本の輸出が減り、日本のGDPの伸びは、鈍化しました。現在の経済環境は、当時の環境とは全く違っていて、GDPは中国やドイツにも抜かれ、インドにも抜かれることが予想されています。ただ、現在の円安水準は、日本銀行の金融緩和の結果、日米の金利格差が原因です。
日本銀行は、金融緩和を辞め、徐々にゼロ金利からの脱却の意向を表明しています。しかし、金利は、依然と低いままで、米国の金利と比較すると、まだまだ差が大きく、米国中央銀行の景気判断は、米国市場でのインフレーションは、継続しているとしています。このままでは、日米の金利差は、さらに拡大するとの予想から、ドル買い・円売りが続く情勢です。市場は、日本政府の円買いを警戒しながら、じわじわとドル買いを続けています。数日のうちに1ドル155円を越える円安になるでしょう。
2024年4月25日(現地時間では4月24日)、ロンドン為替市場では円安が進み、対ドルの為替レートは、34年ぶりに155円を超えました。1990年からの34年間で、最も対ドル交換レートで高かった2011年10月末には1ドルは、76円前後で推移していました。つまり、この13年間で、円は、対ドル相場で、半分ほどの価値になりました。1995年にも、一時、1ドル78円前後になりました。1995年は、クリントン政権によるドル安誘導政策が原因でした。2011年の円高は、同年3月11日に起こった大地震と、それに続いた大津波からの東日本の復興に巨大な資金が必要があるとの予想から、海外に集まっていた資金を円に換えて、国内に戻したことが原因でした。
過去約1週間、為替市場では、日本政府による円買い介入があるとの予想から、1ドル154円台の取引が続いていました。その結果、市場関係者は、日本政府は市場介入ができないと判断したようです。実は、1ドルが152円のラインを超えたときにも、日本政府による円買い介入が予想されていました。しかし、岸田総理大臣の訪米などがあり、財務省は為替介入のタイミングを失ったようです。日本政府にも余剰資金が不足していて、簡単には介入できなくなっているようです。米国内の景気動向が、堅調であり、FRBの金利引き下げは、難しくなりつつあります。むしろ、金利引き上げも視野に入っているようです。そのことは、日米の金利差が開くため、円安は、さらに進行する可能性が出てきました。
この現状を考えると、円安を止めるためには、日本銀行は、金利を上昇させることしかできなくなっています。金利を上げれば、日本政府が抱えている未償還の国債に支払う利子に必要な歳出が兆円の単位で必要になります。これまでは、日本銀行は、米国内の景気が後退局面に入り、金利を緩和しなければならなくなることを期待していたようです。米国で、金利が上昇すれば、日米の金利差が縮小し、円安は是正されるはずです。そのような、米国における金利の引き上げが期待できなくなった現状では、現在の円安を止める方法は、日本国内における金利を上昇させることだけでしょう。日本国内での金利を上げれば、金融機関から低い金利で融資を受けている企業や、住宅ローンを借りて、自宅を購入している人々には、大打撃になるでしょう。その打撃により、国内に深刻な不況が発生するかどうかが不透明です。
この危機的な状態にある金融政策の問題を解決するためには、国内の経済を発展軌道に乗せる方法しかありません。安倍元総理と黒田前日本銀行総裁が導入した金融緩和政策によって起こった、超円安と巨額の国債買い入れなどの副作用を克服するためには、経済政策の原点に戻り、地道に日本経済を発展させる政策を導入するしかないでしょう。問題は、日本国内にそれを支える人的資源が不足していることです。人口減少の問題が、私たちの眼前に立ちふさがっているのです。30年前に根本的な対策を実施していなかったため、これから、この問題の解決に着手しても遅すぎるからです。日本人によくある、根本的な問題に目をつぶり、小手先だけの対応に専念する傾向が、致命傷になっています。今からでも、抜本的な問題解決に着手しなければなりません。
2024年6月半ばの日本銀行政策決定会議で、日本銀行による日本国債の購入限度額を引き下げる政策が決定され、その発表がありました。ただ、具体的に、「いつから」その決定に従った国債の買取を行うのか、また、具体的に買取額の上限をどう設定するのかについての発表が無かったため、市場での為替相場は「円安方向」に進んでいました。2024年6月27日の市場では、円とドルの為替レートは、1ドル160円を越えた円安相場になり、1ユーロ170円を越え、大幅な円安傾向が生じました。市場では、日本銀行と財務省が円相場に介入し、円高にしようとするのではないかとの憶測が飛び始めました。日本国内での物価の上昇への影響も心配されています。6月末に、1ドル160円の円安水準を超えてから、日本政府による為替介入がないことわを確認した市場は、じりじりと円安相場を進めてゆきました。7月上旬には、1ドル161円から162円の間での取引を続けていました。
この間、東京証券取引所では、平均株価が、4万円台になり、史上最高額を更新しました。ドル高円安の局面では、平均株価は上昇するのが普通です。この常識の通り、株式市場は、推移していました。しかし、今回の円安は、日本経済の弱体化が基本にあり、景気の動向に連動した株高ではありません。経済界からの進言があったように、異常な超円安は、当局が放置してよい状態ではありません。本来であれば、金利を上昇させることで、円高に移行させる対応をとるべき局面です。ところが、日本の株式市場では、円安・株高の状況を歓迎して、現在の経済状況を評価する人々が、少なくありません。つまり、現在の東京証券取引所の高い平均株価が、日本経済の好景気を先取りしていると、考えているようです。これは、株価を中心に景気を考える、古い視点からの意見です。
為替市場でドル高・円安が進む状況では、輸出が企業の利益を左右する産業分野では、企業の利益を大きく拡大するので、企業の決算を良い方向に導きます。このような背景から、自動車産業に属する多くの輸出系企業においては、これまでの日本政府の円安容認政策を評価しています。しかし、それは、長期的な視点から見れば、日本経済を弱体化させる問題を含んでいます。2014年7月11日の東京証券取引所では、日経平均株価が42,000円台を超え、最高値を記録しました。これは、円安と、ニューヨーク株式市場の株高によってもたらされた結果です。東京証券取引所でも、米国の機関投資家が、円安で割安になった日本の輸出系企業の株を、大量に買ったからです。つまり、日本経済の将来性が評価された株高ではなく、国際為替市場での円安によって引き起こされた株高です。その円安は、日本経済の弱体化が原因なのです。
日本時間の2024年7月11日、米国において消費者物価の動向に関する情報が、米国政府から発表されました。その報道で、米国社会での消費者物価が、一般の専門家たちによって予想されていた値よりも低かったことが明らかになりました。このことから、ニューヨーク株式市場で、FRBによる長期金利の利下げが9月頃から始まるであろうとする見方が広まり、「金利の利下げ」が好感され、ハイテク株を中心に、株が広く買われ、平均株価が上昇しました。このニューヨーク市場での株価上昇と、為替市場における円安・ドル高の相乗効果により、米国の機関投資家が中心となって、東京の株式市場における株の買い注文が増加し、東京証券取引市場での平均株価の上昇が起こりました。この時点で、「異常な円高が進んでいる」と見ていた、日本政府の金融庁と日本銀行が協調して、為替市場における「ドル売り円買い」の為替介入が為されたようです。
この日本政府による為替介入によって、国際為替市場における円・ドル為替レートは、1ドル177円程度まで、円高が進みました。しかし、この為替レートは、時間の経過とともに、徐々に円安方向に振れています。もはや、政府の為替介入では、円安局面を止めることはできないようです。日本社会には、国際社会から、抜本的な対策が求められているようです。経済の専門家たちは、1ドル140円前後の為替水準が適切であると言っています。それを阻害している要因は、日本社会が、「人為的に行った経済政策が誤っていた」ことであると、言わざるをえません。可能な限り、私たちは急いで、その「普通ではなかった経済政策」を是正する対策を採って行かなければなりません。そうしなければ、裕福な人々の国民の資産は、単に、外国通貨に替えられ、外国の投資に回されるだけでしょう。一般の日本国民は、ますます、貧困に陥ることになるでしょう。
2024年7月16日のニューヨーク証券取引所では、平均株価の終値が4万ドルを2日続けて上回り、史上最高値となりました。これは、その前日、ニュージャージー州の大統領選挙戦で共和党員集会で演説していたトランプ候補が、20才の若者に銃撃され、右耳を負傷したものの大事に至らず、トランプ氏が大統領選挙で有利に立ったとする見方から、当選後には大幅な減税を実施するとの予想が広まり、米国内の景気が好転すると考えられたこと、また、政府の発表で、米国の消費者物価指数が落ち着きを見せたこと、そして、米国内の消費動向が低下していないことが判明したため、FRBによる長期金利の利下げが近く実施されるとの観測が広まったことから、株が買われていると分析された結果であるとされています。このニューヨーク市場の株高によって、東京証券取引所の平均株価も上昇し、最高値が更新されています。ただ、FRBの長期金利の利下げが実施されると、日米の長期金利の利子の差が縮まるため、やや円高になると予想され、それによって東京における株価は、低下すると予想されています。
2024年7月31日、日本銀行の植田総裁は、30日から開催された政策決定会議において、短期金利の上限を、従来は0.1パーセント程度であったものを、0.25パーセント程度にまで上昇させることを認めることとしたことを、31日の記者会見で発表しました。この発表を受けて、東京の国際為替市場では、31日の午後、1ドル150台まで上昇しました。30日の相場が、1ドル155円台であった円の水準が、約5円ほど上昇しました。これは、日米の金利差が縮小したことを市場が評価した結果と言えます。その長期的な影響を分析すると、以下のようになります。
円高・ドル安は、直接、東京証券取引所での平均株価下落を生じさせます。これは、世界の株価がニューヨーク証券取引所の株価を基本に動いているからです。円高・ドル安は、ニューヨーク証券取引所での株価を円換算したときに、株価を押し下げるからです。このことは、東京証券取引所で株を買っている日本の年金基金が保有する株式資産を目減りさせるので、年金基金の損失を拡大します。そして、将来の日本国民に支払う年金を縮小させます。同じ理由で、証券市場で日本株を買った日本銀行の株式資産も目減りさせます。これは、日本銀行の中央銀行としての信用に悪影響を与え、長期的には日本の通貨「円」の信用低下を招きます。これらの「アベノミクス」によって導入された金融政策の悪影響は、長期に渡って、日本経済に悪影響を及ぼし続けるでしょう。リスクの高い株式などに、日銀の資金や、国民の年金資金を大量に投入すことは、短期的に株価を押し上げる方法としては有効ですが、長期的には「国がやるべきではない」金融政策です。これまでに日銀が買った株式は、市場で売れば、株価の暴落につながります。
2024年8月6日の読売新聞によると、8月5日、東京の外国為替市場で円が高騰し、一時、1ドル141円台にまで上昇したそうである。この円高ドル安の影響を受け、東京証券取引所では、株価が4451円暴落したとの情報も紹介されています。2024年に入って、政府が国民に対して、個人の資産を貯蓄から株式投資に移すことを奨励するため、税制を改めて、新NISA制度を導入しました。その後、株価は順調に上昇し、7月に平均株価が4万2千円台にまで高騰していました。新NISAの制度を利用して投資信託を利用して株式投資を始めた人々は、株価の上昇で得た見込みの利益に喜んでいました。しかし、日銀の植田総裁が、金利の上昇を発表した途端、為替市場で円が買われ、対ドルの為替レートで数円上昇したのをきっかけに、米国内での景気減速の懸念から、米国市場での株価下落が始まると、東京証券取引所での株価は、急激に値を下げ始めました。この傾向は、終末を挟んで8月4日の東京市場での株価下落となりました。
8月に入って、米国内の雇用統計で、求人が減っていることが明らかになると、米国の市場関係者は、FRBの金利政策が変更され、米の金利が下がるとの予想から、日米の金利差が縮小するため、円高局面に入るとの予想から、為替市場での円高圧力がまして、1ドル150円台の為替レートが、1ドル140円台に下がり始めました。米国での雇用統計で、求人が減ったのは、ハリケーンの影響で、一時的な要因によるものと言われていますが、多くの国民は、長く続いていた米国経済の拡大局面は終わり、景気が減速するとの予想から、「株を売る」モードに移行し始めているようです。このニューヨーク証券取引所の影響と、円高ドル安の直接的な影響で、下がり始めた株価を心配した日本の投資家たちが、株を売り始めたため、東京での株価が、暴落したようです。もう一つの原因として、最近の株式市場では、コンピュータを利用した高速取引が増加し、コンピュータが自動的に株の売り買いを決定する例が多くなっているため、一旦、株売りが増加すると、コンピュータが損失を避けるために、自動的に株を売るため、株価が急落する現象が見られます。
この新しい傾向は、個人の投資家が、コンピュータを利用して、株の売買を仕事として生活をするようになったことも影響していると言われています。デイ・トレーダと呼ばれていますが、個人でも短期間で数千万円から数億円を稼ぐ人もいるそうです。もちろん、それは一部の人々で、多大な謝金を背負う人々も少なくないのです。これは、ギャンブルと同じです。大手の機関投資家の中には、そのような人々が参加する市場での株価の乱高下を想定して、株価が暴落しても利益を生み出せるような仕組みを組み込んでいる企業もあるそうです。株価は、経済の実態を反映する指標にはならなくなっているのかも知れません。
2024年8月からの約3か月間、外国為替市場における日本円の変動と、米国株式市場における株価の乱高下によって、東京証券取引所の平均株価は、乱高下を続けてきました。平均株価は、3万円台の半ばから、4万円を少し超える程度まで、上下で、7000円程度幅で動き続けました。日本円も、外国為替市場で、140円前半から、152円前後まで、振れ続け、150円を少し超える程度で、現在は推移しています。米国経済の動向が堅調なため、市場では、長期金利は少し上がると予想されていますが、日本経済に安定性がないため、国債発行残高の多さと、長期金利の低さ、日銀総裁の後ろ向きな姿勢が、日本経済の脆弱さを物語っていると考えられ、日本経済の長期的な成長が危ぶまれているようです。その意味で、日本円は、低く評価されています。
日本国内の人口動態を見ると、日本の現状を変えずに、経済を成長路線に向かわせることは、日本の政治家が言っているほど簡単ではないでしょう。、国内の人口政策を大きく変える、国外からの移民の受け入れ政策を転換する、高度な知的労働者を大量に育成し、産業に展開できるような、教育と雇用に関する行政政策の大転換なくしては、本質的には、この国の再建は無理なはずです。日本社会は、これまで他の社会ができなかったことに挑戦しているのです。