公開: 2020年4月8日
更新: 2020年6月15日
どう思いをめぐらせるのかを考えるにあたって、最初に、「思いをめぐらせるとは」とは、どのようなことを言うのかについて考えてみましょう。私たち人間は、大きな脳を持っています。大脳と呼ばれている頭の大部分を占めている、部分です。人間は、他の動物と比べると、とても大きな脳を持っています。そして、この大きな脳は、人間がものを考えられるようになった理由のひとつです。
「ものを考える」とは、一体、どのようなことを言うのでしょうか。ここでは、この「ものを考える」とは、どのようなことを意味するのか、そして人間が進化を続け、地球上で最も繁栄した動物になるために、考える力が、どのような役割をになったのかについて、考えてみましょう。
特に、人間は、大きな脳を使い、言葉を使って人間同士が意思疎通(いしそつう)を図って、自分達の経験を共有する能力を持つようになりました。この言葉の力を利用した、経験の共有と、その共有されている経験を使って「考える」ことの意味について、議論しましょう。
どう思いをめぐらせるのかを考えるにあたって、最初に、「思いをめぐらせるとは」とは、どのようなことを言うのかについて考えてみましょう。私たち人間は、大きな脳を持っています。大脳と呼ばれている頭の大部分を占めているものです。それは、巨大な神経ネットワークのかたまりと、血管でできています。
この大きな脳は、私たちの周りで起きていること、目に見える光の変化、耳に聞こえる音の変化、鼻で感じるにおいの変化、舌で感じる味などの変化、体の様々な分野で感じる圧力の変化、さらに体の内部で起きている変化など、体の様々な部分にある神経を通して伝えられてくる変化についての知らせを集める場所です。脳は、それらのさまざまな知らせから何を読み取るかを決め、そこから何が起きているのかを判断します。
このような周りで起きている変化をとらえる能力は、人間だけでなく、犬や猫でも行うことができます。例えば、音を聞けば、その音がどちらの方向から伝わって来ているのかを判断して、その方向に目を向けて、何が起きているのかを見ようとします。音が、聞き慣れた音で、身に危険が迫っていると思えないときは、その音を聞き流します。身に危険が迫っているかもしれないと思ったときは、何が起きているのかを確認しなければなりません。
そのように、聞き流してよい音なのか、何が起きているのかを確認しなければならない音なのかを判断する時、私たちの頭の中、脳の中で、私たちは「思いをめぐらして」います。別の言い方をすれば、聞こえた音が、どのような音なのかを考え、「身に危険があるかも知れない」と考えれば、音が聞こえた方に目を向け、「なぜそのような音がしたのか」を確認しなければならないと考えているのです。
このような「情報」の処理を脳の中で行い、身に迫る危険が、本当に身に降り掛かる前に、自分の居場所を変えるなどして、身を守る対応をとらなければなりません。これは、動物などのすべての生物に備わった、大切な能力のひとつなのです。この能力がなければ、動物は自分たちが生き残ることができず、絶滅してしまいます。ですから、そのような能力に問題がある「動物の種」は、進化の過程で絶滅しているはずです。
そのような意味で、思いをめぐらす力は、私たち人間だけの能力ではなく、全ての動物の種に備わっている能力です。ここで皆さんとお話ししたい「思いをめぐらせる」方法で問題にしているのは、そのような能力ではありません。そのような行為の後、私たち人間は、「なぜ、そのような変化が起きているのか」や、「その変化に対して、私たちがどう対応すべきか」について、考えます。
つまり、私たちのベットである犬や猫が周りの変化にすぐに反応しようとするのに対して、私たちは、変化を起こさせた原因が何であり、その原因の結果として起きている変化に正しく対応するために、私たちはどう振る舞えば良いのかなど、より深く考えて行動をするように訓練されています。この能力が、私たち人間の先祖が、他の動物達よりも、数を増やし、長く地球上で繁栄できている理由です。
そのように「深く考える」ために、「正しく考える」ために、私たちは、どのように思いをめぐらせれば良いのかについて、整理して、より良い方法を見つけ出すことは大切なことです。ここで、皆さんと話したいことは、その「より深く考える」とか、「より正しく考える」ために、私たちは「何に注意して、どのように考えを進めてゆけば良いのか」についてです。短い言葉で言えば、「考え方」について議論しようと思っています。
例えば、自分の周りで火の手が上がり、それがどんどん大きな火事になってゆくように見える時、私たちはその火の手から身を守るためには、水などで火を消すか、火から遠ざかるように逃げなければなりません。逃げるのであれば、私たちが見ている火の方向とは、逆の方向に逃げることなのでしょうか。逆の方向へ逃げることが、最も良いことなのかどうかは分かりません。例えば、道が回りくねっていて、その方向に逃げても袋小路になっていて、逃げられなくなるかもしれないからです。つまり、周辺の地形や、建物の並びがどうなっているのかについての知識を手に入れて、その「知識」に基づいて行動しなければなりません。
では、「知識」とは何を言うのでしょう。私たちが物事を判断したり、それについて思いをめぐらすときには、自分自身で感じたことだけを頼りにして考えているわけではありません。私たちの親や兄弟、幼稚園や小学校の先生から教えてもらったことや、周りの人から聞いたこと、本で読んで知ったことなども参考にして考えます。自分自身で感じたこと、そこから学んだことを「経験」と言います。私たちは、自分が経験して、学んだことだけでなく、他の人々が、その人々の経験などから学び取ったことも、まるで自分が経験したかのように、自分のものとして学びます。そのようにして「学んだ」教えを、知識とよびます。そのような知識は、言葉で人から人へ伝えられます。つまり、知識の大部分は、言葉で表され、私たちに教えられた、他の人々が経験した「こと」です。
また、「情報」とは何でしょう。私たちが自分の周りで起きていることを、自分の耳や目で感じ取る場合、それは人間の神経を通して、耳から脳へ、目から脳へ、伝えられます。しかし、自分のすぐ周りで起きたことでなければ、私たちはそれを、自分の体で感じることはできません。しかし、我々人間は、言葉を使えます。言葉で、ある人が経験したことを表し、それを別の人に伝えることができます。そのようにして、本当にそれを経験した人でなくても、まるで同じ経験をして、その経験がどのようなものであるかを、他の人に知らせることもできます。そのような「そのことを経験していない人に、それがどのようなものであるのかを言葉で表し、伝えよう」とします。この、ある「できごと」を、それを知らない人に伝えるために、それを言葉などで表現したものを「情報」と言います。
普通、私たち人間があることについて、その知識を他の人々と共有し、分かり合おうとするとき、最初にその「こと」についての「情報」が伝えられます。そして、似たような事がらについての情報がいくつか集まると、集まった情報の中から、にたような性質や条件についての思いがめぐらされ、それらの情報の断片から、それぞれの事がらとは別に、そこから人間が学ぶべき事がらが選び出され、「知識」としてまとめられます。我々、人類は、そのようにして、我々の周囲で起こってきた様々な「できごと」から、さまざまな「知識」のかたまりを作り出してきました。
例えば、地震と津波との関係、地震と山の噴火の関係などがそれの一つです。大きな地震が起きると、海に巨大な波が発生して、海岸に押し寄せることがあります。私たちは、それが、海底で起きた地震で、海底に大きな断層ができて、その大きな割れ目に水が流れ込んで、海底で波が作られ、それが少しずつ広がって、海岸に押し寄せることを知っています。これが、人類の知識の例です。このような知識は、犬や猫は作っていません。それは、犬や猫が、人間のような言葉を持っていないからでしょう。犬や猫は、今、自分達の身の回りで起きていることや、自分が感じていることを仲間に伝えることはできます。しかし、自分が直接、経験していない昔のことについては、仲間にも伝えることができないので、知識を作り出してゆくことができないのです。
このような、かつて人々が経験したできごとの記憶を言葉として表し、自分達の先祖から伝えられてきた知識も使って、筋道(すじみち)をつけて整理をすると、今、自分の周りで起きているいくつかのことが、お互いに関係しあっているいることがはっきりと分かり、自分や自分の周りにいる人々の身に何が降りかかりつつあるのかを、それが本当に起こる前に知り、正しい対応をとることができるかも知れません。そのような行為を、「思いをめぐらす」と、ここでは言いましょう。そのやり方を考えるのが、ここでの問題になります。
ところで、このようなやり方は、人間だけに特別なやり方ではなく、アフリカ大陸に住んでいる象の群れ(むれ)でも見られるそうです。象の群れのリーダーは、年老いたメスの象だそうですが、自分達が大陸のどこへ移動しなければならないのかを決めるそうです。このとき、リーダーの像は、自分が生まれてから経験してきたことを思い出しながら、水場が枯れそうなことや、草原の草木が減ってゆくことなどを、それが起こる前に感じ取り、群れをどこに導けば最も安全で、多くの仲間を失わずに済むのかを考えているそうです。このとき、自分が子供の時に、その時のリーダー像がとった行動なども、思い出して決めているのではないかと言われています。
つまり、自分個人の経験だけに頼るのではなく、自分達の祖先が学び取ってきた経験的な知識も使っていると考えられているのです。そのようにして、適確な判断ができるリーダー象が率いる群れは、群れに属する象の数が増えるため、繁栄することができていると言えます。しかし、象の場合、リーダー象が、他の群れのリーダー象のやり方や、遠い祖先のリーダー象がやったやり方を「まねる」ことはありません。それは、象たちには、人間の言葉のようなものごとを、ことこまかに表して、別の象に伝える方法がないからです。さらに、象たちには、言葉に表された「やり方」を、何かに書き残すことはできないからです。特に、文字を使って「やり方」を書き表す能力は、私たち人間、「ホモサピエンス」だけが持っている能力です。