公開: 2021年7月8日
更新: 2021年8月5日
地球の46億年の歴史の中で、人類の祖先が誕生してから、約600万年の年月しか経っていないと考えられています。さらに、現代に生きている私たちの祖先が、旧人類から分かれて生まれたのが、約20万年前と考えられています。そして、その新人類の誕生から、私たち人類の祖先は、すさまじい勢いで仲間を増やし、巨大な社会を作り出し、その社会を維持し、発展させるために、文明を築きました。
そのような私たちの祖先が行ったことの一つに、自然にある植物を何世代も育てて、人間にとって耕作しやすく、収量も多い小麦などの品種を生み出し、それを主要な食物として人間社会を維持する文明を生み出したことがあります。この過程で、人類の祖先達は、社会の中で情報や知識を共有するために、言葉を生み出し、その言葉を粘土板や紙の上に書き残すための「文字」と、言葉を書くための「決まりごと」を生み出しました。
今から3,000年くらい前になると、人類は言葉で表現する文章の内容を、聞き手に納得させるためのやり方を考え始め、古代ギリシゃの時代になると、その方法をまとめて、同じ社会の人々に教えるようになりました。私たちの祖先が、小さな集団を作って、お互いに助け合って生活するようになり、身近な人々の「死」をよく経験するようになり、人間達はその状態を意味する言葉の必要性を感じ、「死」と言う言葉を生み出しました。
このことは、人間社会では、「見えるもの」や「見える状態」だけでなく、普段は見ることができない珍しい「もの」や「こと」にも、人間は「名前」を付けて、それを言葉で言い表すことができるようになりました。これが、後に、哲学者達によって、「善」や「正しく生きること」とは、どのようなことを意味するのかを議論するきっかけになりました。そのような、人間社会で共通に理解される言葉と、それに基づいた行動が問題にされるようになりました。
人間は、一人では生きてゆきます。人間は、他の人々と一緒に社会を作って、お互いに協力し合って生きてゆくのです。チンパンジーやゴリラ、ニホンザルや象、ライオンも、どんな動物でも、大体、人間と同じような社会を作っています。動物でも、一匹で生きるよりも、複数が集まって生きる方が、生き易いからでしょう。
特に人間は、他の動物たちよりも、大きな社会を作っている場合が多いのが特徴です。人間が、他の動物たちよりも大きな社会を作って生きることができるのは、人間が言葉を使って、人間同士の意思のやり取りができるからです。もちろん、他の動物たちも、鳴き声を使って、互いの意思のやり取りをしています。
人間が、他の動物と異なるところは、人間が話す言葉は、話すために使う言葉(単語)の数や、言葉の組合せで伝えることができる内容が、たくさんあるからです。チンパンジーやゴリラでも、たくさんの図形を憶えて、人間と意思のやり取りができるようになった例も知られています。
しかし、チンパンジーやゴリラの場合、鳴き声を使って、チンパンジー同士、ゴリラ同士が情報のやり取りをすることは少ないようです。これは、チンパンジーやコリラ達が、人間に似ている動物であるにもかかわらず、口の形、のどの形、舌の形などが、私たち人間とはかなり違うため、人間のように、いろいろな種類の音(鳴き声)を出すことが難しいからだと考えられています。
このことから、チンパンジーやゴリラの場合、色々な言葉を使って情報のやり取りをするために使う、大脳の言葉に関係した部分が発達していないと言われています。チンパンジーから進化してきた人間は、その進化の途中で、口や、のどや、舌などの形を少しずつ進化させ、様々な声を使い分けられるようになり、そのようにして作り出した言葉を組合わせて、自分の思うことを、他の人々に伝えられるようになったと思われます。
さらに人間は、4千年ぐらい前から、声の出し方で変えていた言葉を、粘土板に木の棒を使ったり、植物の繊維を取り出して作った紙に、木を燃やして作った炭のペンや、土や木炭の粉を水に溶いたインクをつけた木の棒を使って、書き残す方法を考えました。このとき、それまでは声の出し方で表していた言葉を、粘土板や紙の上に残された記号の形で表す方法を考え出しました。文字の発明です。
エジプトでは、ナイル川の岸辺に生えていた葦から作った「パピルスの紙」に書かれた象形文字で、メソポタミアのバビロニアでは、粘土板に木のヘラを刺して刻み込んだ楔形文字で、中国では木片や紙に書かれた表意文字で、自分が考えたこと、見たことを記録できるようになりました。エジプトでは、王の業績を書き残すだめに、バビロニアでは、社会の秩序を守るための約束を書いて、広く国民に知らせるために、書かれた言葉が使われるようになりました。
今から3千年くらい前の古代ギリシャの時代になると、メソポタミア地方のフェニキアで考え出されたアルファベットを使って、人の声を音として書き写す方法(表音文字)が生み出され、古代ギリシャで使われたキリシャ文字が生まれました。その結果、古代ギリシャで考えられ、教えられていた思想が、ギリシャ語で書かれ、その後の世界に伝えられました。
ある人が考えたことを、できるだけ正確に言葉で表して話し、それを書き言葉で書き残すためには、厳密な言葉の使い方に関する約束事が大切です。この約束事を「文法」と言います。文法がしっかりと決まっていなければ、ある人が伝えたいと思ったことを、他の人々や、その後の時代の人々に正確に伝えることはできません。また、個々の言葉(単語)とそれを文字で書き表す方法も、はっきりと決めておかなければなりません。
古代ギリシャの哲学者たちは、そのようなことから、ギリシャ語の正しい使い方を決め、個々の言葉の使い方や意味をしっかりと決めて、それらも書き残しました。現代人の私たちが、古代ギリシャにアリストテレスが話した哲学の話を、アリストテレスの弟子たちが書き残した書物で読み、アリストテレスが言おうとしていたことを理解できるのは、言葉の意味と、言葉を書くための文字と、文字を使って文章を書くための文法が、伝えられているからです。