公開: 2019年7月11日
更新: 2024年11月14日
日本人は、自分たちの特徴を述べる時、「日本人は、手先が器用で、モノづくりに向いている人々である。」と説明する。それは、本当であろうか。
日本人は勤勉である。日本人はまじめに勉強し、働く。日本人は読み書きがよくでき、知的水準が高い。日本人は手先が器用である。日本人はモノづくりが得意である。日本人はモノづくりに向いている。これらは、日本人が日本人についてしばしば述べるときによく使う表現の例です。
これらの表現は、江戸時代の人々にもなじみのあったものだったのでしょうか。多分、その表現は明治時代以後に普及した考えだと思います。江戸時代は、徳川幕府の鎖国政策で一般の庶民には諸外国を意識する視点はなかったからです。それ以前の日本社会では、先進的なものづくりの技術は中国から朝鮮半島を介してもたらされたものがほとんどでした。戦国時代の末期から、鉄砲に代表されるヨーロッパの技術も伝えられていましたが、日常の生活に密着したモノの生産に関わる技術は、中国を起源とするものがほとんどで、日本社会の中で長期に渡り伝承を重ね、日本化されたものでした。
明治政府は、日本の富国強兵を基本戦略として、製造業の振興に努めました。「日本人は元来、モノづくりに向いている」と言う主張は、そのような大日本帝国政府の戦略に基づいて、当時の日本社会の中に根付いたものではないでしょうか。それは、第2次世界大戦を戦っていた日本社会全体の空気の中で、当時の国民の心の奥底に深く刻み込まれたのでしょう。「勤勉な日本人が作るモノ(武器など)は、品質が良く、欧米人が作るモノよりも質が高く、性能が良いので、欧米列強との戦いにも有利である」と言う主張が、国民全体に信じられていたと思われます。
ここでは、この「日本人はモノづくりに向いている」と言う主張について考えてみます。最初に、江戸時代から1990年ごろまでの日本のモノづくりの歴史を振り返り、最後に1990年代以降の世界で日本が直面している問題についてまとめます。その歴史的な議論に基づき、日本の教育制度と雇用制度の問題について考え、さらにグローバル化が進むこれからの世界で重要な国際規格と相互認証の問題について説明します。最後に、「日本人はモノづくり向いているのか」と言う問題について結論をまとめます。