公開: 2019年7月13日
更新: 2024年10月26日
今から約7万年前、インドネシアの火山が大爆発を起こし、その火山灰が地球を覆ったため、アフリカ大陸の動植物の多くが死に絶えました。私たちの祖先も、絶滅の危機に瀕しました。その時、私たちの祖先は、それまでよりも周囲の人々と協力して生活できる人々と集団を作り、暮らしてゆく生き方を選び、闘争心(とうそうしん)の低い、心の優しい仲間を中心に集まるようになりました。それは、チンパンジーのように男性ホルモンの分泌が多く、力の強い個体をリーダーとした集団ではなく、集団の多くのメンバーの意見を聞き、集団の将来のあり方を考える個体をリーダーとする集団です。
人間の祖先達は、集団の中での人々の「つながり」を守り、大きな集団を作るために、様々な「決まりごと」を決め、その「決まりごと」を守って生きる人々の社会を作りました。集団内の人々のつながりを深めることは、集団内での個人と個人との間の「もめごと」の発生を防ぐため、有効に働いたでしょう。この人間の祖先達の心の奥底には、同じ集団に属する人に対する「思いやり」や「愛情」を持つことで、食べ物が不足している時には食べ物を分け合ったりすることで、お互いを助け合い、その結果として子孫を増やし、自分たちの集団や社会の大きさを、大きくするために役立つと言う考えが生まれていたと思われます。
約7万年前にインドネシアで起きたトバ火山の大噴火の影響で、空が火山灰の残した細かな粒子によって太陽の光がさえぎられ、大きく気温が下がりました。その寒冷化の時、人類の祖先達は寒さをしのぐために、アフリカ南部の海岸近くや、アフリカ中部の川辺近くの洞窟に移り住み、大きな集団で、少ない食物を分け合って、助け合いながら暮らさざるを得なくなりました。気温が下がったため、食用の植物を集めることも難しくなりました。また、草原に居た動物たちも草原の草が育たなくなって草食動物が減り始めたため、それを餌にする肉食動物も、食料不足で減り始めていました。そんな状況の中で、弱い人間の祖先達は、自分達が生き残り、子孫を絶やさないようにするように、お互いに「助け合って生きる」ことが大切であると考えるようになったようです。
もともとは、チンパンジーのように「攻撃的だった」人間の祖先の中では、テストステロン(男性ホルモンの一種)の分泌が多い、男性の人間の中でも、特にテストステロンの分泌の多かった人たちは、その凶暴性がじゃまをして、集団の中で暮らすことが難しくなり、数千年から1万年ぐらいの間に、そのような遺伝子を持った人が少しずつ、少なくなってしまったようです。それに代わって、テストステロンの分泌が少し少ない、他の人と協調できる性質を持った人が増えていったようです。人間の額の眉の上の部分の盛り上がりが、少しずつ目立たなくなり、チンパンジーとは違った顔に変わってゆきました。そして、仲間同士の間では、自分達の集団で決めた決まりごとを守るようになっていったようです。
そのような火山の噴火の影響による地球の気候の大変動が起こらなければ、テストステロンの分泌が多く、凶暴性が高い人間の方が、凶暴性の低い、力の弱い人間よりも、生きるために有利であることから、集団の中での人々のつながりを深くする、穏やかな性格の人間よりも増えてゆく傾向があったはずです。チンパンジーは、人間の性格が穏やかになっていた時代よりも前の時代から、現在に至るまで、生物として体の大きさや性質は、ほとんど変化していません。そのために、人間の数は爆発的に増えているのに対して、野生のチンパンジーの数は減り続けています。人間も、チンパンジーやネアンデルタール人と同じ道をたどってもおかしくなかったはずです。
人間にとって、大きな集団を作ることは、他の集団との「競争に勝ち残る」ためにも、重要なことでした。実際に、大きな集団を作れなかったネアンデルタール人は、4万年近く前に、絶滅してしまいました。人間の祖先達は、大きな集団を作るための方法を見つけ出しました。それは、ネアンデルタール人達がやっていたことと大きな違いはなかったようです。それでも、この二つの種族間の生存競争には、大きな違いが生まれました。ネアンデルタール人も、人間の祖先と同じように、集団内の決まりを守って生きていたと考えられています。しかし、その集団内での「決まりごと」は、人間が考え出した「決まりごと」よりも、身近なことに関する決まりが多く、そこから抽象しなければ作れない、ある意味、高度な決まりごとを作り出せなかったようです。
例えば、ネアンデルタール人達は、食べ物を皆で分けるときも、基本的には家族を中心とした集団内でしか、お互いに分け合うことをしなかったようです。これに対して、人間の祖先達が、ネアンデルタール人と出会うようになった時、人間の祖先達は、集団から取り残されてしまったネアンデルタール人を、自分達の仲間として受け入れ、食べ物などを分け合うこともあったようです。このため、人間の祖先の一部の人々は、ネアンデルタール人の血を引く人とも結婚をして、子供を産むことがあったようです。現代の人類、私たちの遺伝子の中には、数パーセントですが、ネアンデルタール人が持っていた遺伝子が残っています。