人間、道具、社会

公開: 2019年7月13日

更新: 2024年10月25日

あらまし

コンピュータを使えば、私たちは、人間の計算の1万倍以上の速度で、判断を伴う計算を行うことができます。この計算速度の速さを利用することで、株式上における株の売買や、為替市場における通貨の売買取引を有利に進めることができます。相場が上がる場合も、相場が下がる場合も、その判断を高速に行い、素早い対応を行えば、取引で大きく損をすることはなくなります。

8. 機械と人間の関係 〜 (11)良い解き方を考える 〜

そのような問題の良い解き方を研究する専門家にとって、その問題を解くためのヒントになるのは、コンピュータを利用できなかった時代、人間は同じ問題をどのように対処していたのかという経験です。そのような経験は、古代からあったわけですから、人間はそのような問題にどう対処してきたのかを考えることで、本当の意味で問題を解くことはできなくても、取りあえずの範囲で、「良さそうな答えを探そう」という方針です。そのようなやり方の一つとして、デタラメに答えになりそうな候補を作り出して、与えられた数式にあてはめ、どうなるかを計算させるという方法です。デタラメな数字をたくさん作り出して、当てはめ、その計算を別のデタラメな数字でやりなおしてゆき、得られた結果の中で、最も望ましい結果を出した数字を、当座の答えとする方法です。これをモンテカルロ法と呼びます。モンテカルロは、「賭け事」で有名な場所です。つまり、「一か八かで」やって見ようと言うものです。コンピュータの計算は早いので、数多く試してみれば、正解に当たる可能性のある問題であれば、かなり本当の答えに近い、疑似解答に近づけます。

さらに最近では、生物の進化が、結果として環境に適した能力をもつ新しい種類の生物を作り出し、結果として生物を存続させる傾向があることに注目し、現実の世界で起こっていることを数式で表し、現実の世界で使われている答えを当面の答えとして計算を行い、次に、現実の世界で使われている答えを少し変化させ、進化論で言う「突然変異」を作って、その突然変異を使って計算をやり直し、現実世界で実際に使われている答えよりもより望ましい答えが得られれば、それを新しい答えの候補として残し、さらにその候補の突然変異を作って、同じ計算をやり直すことを繰り返すことで、答えを少しずつ進化させて、より望ましい答えを探そうと言う考えも出てきています。突然変異を作り出すために使われるのは、デタラメな数字を使うのは、モンテカルロ法と同じです。

このように考えると、コンピュータのソフトウェアは、単に計算をするための道具と言うよりも、人間が問題を考え、答えを見つけ出すのを助けてくれる道具という位置づけになってきます。そして、その計算を広い視野で考えると、問題の解き方そのものを人間がプログラムを書いて、コンピュータに指示して計算をさせるのではなく、人間は大まかの方針を示すだけで、具体的な答えの候補は、コンピュータが自ら作り出して、それを与えられた計算式(モデルと言います)に当てはめて、何が起こるのかを計算して(シミュレーションと言います)、最もらしい答えをコンピュータが見つけ出し、人間に教えてくれるのです。このとき、コンピュータは、次にどのような答えの候補を試すべきかを、自分で決めているわけです。その決め方は、それまでに試した答えの候補と、得られた結果に基づいて決めます。それは、人間が現実(経験)から学んでいるのに似ています。

世界最初の電子式のコンピュータが作られる少し前、2人の研究者、マカロックとピッツが、人間の脳の神経伝達(しんけいでんたつ)を基にした数学モデルを発表しました。そして、そのニューロンシナップスのモデルをつなげて人間の脳内ネットワークをモデル化できることと、そのようにして作ることができるネットワークは、その100年以上前にバッベージが考えた「考える機械」と同じように、「人間と同じように考える」ことができることを示しました。そして、最初の電子式コンピュータが作られた約10年後、このマカロックとピッツのモデルを基にした学習機械パーセプトロンが発表されました。このパーセプトロンが基本となって、現在の人工知能の研究が進んでいます。

現代のコンピュータは、現実に株の売買などにも利用されています。人間よりも速く計算を行い、素早く状況の変化に対応して売買注文を出せるからです。人間が1秒間でできることは、せいぜい1つのことですが、コンピュータは、時には1000を超える数の処理を行えます。それを株式市場での株式の売買を成立させるコンピュータシステムにつなげてしまえば、1秒間に数千回の取引を行うことも可能になります。このようなコンピュータの利用では、コンピュータの人工知能技術を利用した学習によって得た知識を使い、株の売買をさせることが有利になります。ですから、現代の株式市場では、株価が上がったり下がったりする「相場」に、コンピュータが大きな影響を与えていると言えます。

(つづく)