公開: 2019年7月11日
更新: 2024年10月10日
人類は、類人猿のチンパンジーとは違って、複雑な言葉を使って、相互の意思疎通を図ります。言葉を利用するためには、様々な単語を利用するだけでなく、単語と単語を結びつけて、話者が意図する意味をしっかりと伝えられるような文をつくり、発話しなければなりません。話者が意図した意味が、相手に伝わっていると考えられなければ、表現を替えて、話者の伝えたい意味を伝えなおします。人類にとって、言葉は、意志の疎通のために必要な手段です。
人間は、他の動物と比較すると、様々な音を声として発することができます。これは、長い喉と柔軟に動く声帯を持ったことが原因です。この人間の身体的な特徴を利用することで、人間は様々な音を組合わせて、自分の伝えたいことを、周囲の人々に伝えることができるようになりました。初期の人間たちが使った言葉は、「ライオン」や「象」などが近くに居て、危険であることを伝える程度の、単純な事実を伝える内容だったでしょう。また、「獲物」がどのあたりに居たかを伝える程度の状況を伝えることしかできなかったでしょう。
しかし、私たちの祖先は長い時間をかけて、我々の感覚で直接的に感じることができないものについても、仲間と、それに関する情報や知識を交換できるようになりました。例えば、「死者の霊」や「神」についてのことを、話せるようになったと思われます。旧石器時代の洞窟に残された壁画、古代エジプトや古代バビロニアなどで残された文書で、「神」や「死」について述べた痕跡(こんせき)が残されています。つまり、人々は、エジプトや、バビロニアでは、その人々が考えた神を信じていたということが分かります。
少し難しい言葉で説明すると、これらは人間が感覚的で感じ取ることができるものではなく、人間が過去の様々な経験を集め、その共通点を見つけ出して、その共通点を持った存在や事象に特別な名前を付けたものであると言えます。このようなことを、哲学者は「概念」と呼びます。例えば、「人間」と言う言葉は私たちが目で見て、手で触れることができる、個々の「人」を言っているのではなく、私たちが今までに見たことのある全ての人を代表して、その特徴を持った、ある想像上の人を思い描き、「人間」という概念で呼んでいるのです。
この概念の力をうまく利用して、人間は大きな、何十万人の人々から作られる社会をも動かす力を得たのです。古代ギリシャの哲学者プラトンや、中世の哲学者トマス・アクィナスなど、多くの西洋の思想家たちは、そのような「概念こそが、存在する」と考え、そう主張しました。それに対して、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスや、中世イギリスの哲学者オッカムなどは、「概念は人間が作り出した言葉によって作り出されたイメージであり、それが本当に存在するかどうか、単なる想像上のイメージでしかないのかどうかは、分からない」とする立場を取りました。
この哲学的な問題の議論は、結論が着いていませんが、いずれにしろ、人間は「概念」と言う、我々が生来の能力として持っている感覚から直接得られる情報や知識を集大成した結果として作り出される「考えるための道具」を得たことで、大きな社会を作り出す力を得、さらに、様々な学問の基礎を築くことに成功し、社会と文明を大きく発展させて、人間と言う生物が、地球上の動物の頂点に立つ結果を生み出しました。その意味で、人間は、「概念を生み出し、操ることができる唯一の動物である」と言えます。