公開: 2019年7月13日
更新: 2024年10月16日
人間は、大きな集団からなる社会を維持するために、食物を大量に生産する技術を生み出しました。農業生産の「しくみ」です。その仕組みを有効に働かせるために、社会に「身分制度」と、それを維持するための「法」を作り上げました。この身分制度と、農業生産方式によって、人間は、人間が考え出した「神」のような存在に近づいたと言えます。
人間の祖先達は、一人の支配者が言っていることではなく、もっと大きな力を持った存在を考え、その「大きな存在」が決めた決まりごとだから全員が守らなければならないとしたのです。古代バビロニアのハムラビ王が決めた法律も、ハムラビ王は、「神が私に与えた王の役割を果たすために、法律を定める」と言ったのです。つまり、ハムラビ王の決まりごとは、ハムラビ王が言っているものではなく、ハムラビ王をバビロニアの王としている「神」が言ったことであると言う位置づけになっています。これが、法律の基になっているとする考え方です。
ここでは、人が集団の中で生活するための決まりごとについて説明しましたが、それは、法律のような決まりごとに止まらず、人間の誕生や死に対する基本的な考え方を示す宗教上の決まりごと、人間がやってはならないことや、人間が「すべきこと」に関する基本的(倫理的)な考え方を教える、人間の生き方に関する教えなどにも通じることです。これらについて、集団の中で生活する仲間が、似たような考え方をしなければ、大きな集団をまとめて、全員の生活を維持することはできません。人間の祖先達は、集団の大きさを大きくする過程で、そのような能力を勝ち取ったようです。それによって、我々の祖先達は、競争相手であったネアンデルタール人を絶滅させ、獲物であったマンモスも絶滅させました。
人間の祖先達は、野生の植物を栽培する技術を獲得して、それを安定した主食とすることで、集団の大きさを著しく大きくできるようになりました。これによって、人間は、新しく知った方法をさらに改良して、より便利な方法にすることを、それまでよりも速く行えるようになりました。言葉の獲得と、農業技術の獲得は、人類を地球上でもっとも繁栄できる生物にしたのです。猛獣達でさえ、人間に捕らえられ、人間には危害を加えることができない檻(おり)の中に閉じ込め、自分達の意思に従って行動するように教え込むようになりました。例えば、馬、ラクダ、象などが、その典型的な例です。
人間達の祖先は、自分達が日常に利用する道具、例えば重いものを運ぶための荷車、田畑を耕すための鍬(くわ)などです。さらに、馬にひかせる荷車を改良して、人を乗せて運ぶための馬車も作り出しました。その反面、人間の祖先達は、自分達が獲得した言葉の力や、農耕による食物生産の力を利用して、社会における人間を複数の階層に分けて、数多くの人々を従わせる方法も考え出しました。ハムラビ王が定めた決まりの中では、奴隷達は自分達の好き嫌いに関わらず、主人である「普通の人」の命令に従って働くことを強いられました。さらに、普通の人々も「高貴な人々」の命令に従うことを強いられていました。このように、数が少ない人間が、より数の多い他の人々に命令を出して動かすようになりました。
現代の企業や軍隊でも、少数の上の人が、多数の下の人に命令をして、下の人はどんな場合でも与えられた命令に従って行動すると言う、今日の社会で言う「ピラミッド型」の組織を作り、組織を上手に動かす方法を考え出しました。我々の祖先たちの社会では、その「人々のピラミッド」は、長期間に渡って変わることがなく、奴隷の家に生まれた人は、無条件に奴隷としての生活を強いられました。これは、上に立つ人間には好都合な仕組みですが、下の人々にとっては、決して喜ばしいものではなかったはずです。現代風に言えば、裕福な家に生まれた人は、その人の能力には関係なく、自分も裕福になり、その子供も裕福になることが約束されているのです。