公開: 2019年7月12日
更新: 2024年10月15日
大規模集積回路(LSI)の登場で、コンピュータの小型化と低価格化ができるようになると、小型のコンピュータを部品に搭載し、その小型コンピュータに搭載したソフトウェアで部品の動作を制御することができます。これによって、高度な設計の機械部品を使わなくても、簡単に、高度な機能を実現する部品を作ることができます。
コンピュータがなかった時代、自動車のブレーキは、運転者がブレーキペダルを踏むと、ペダルの下にあるピストン(注射器のようなもの)が押し込まれ、その中に入っている油が圧縮されるので、そこから伸びている銅管を通して、車輪のところについている鉄の円盤(ブレーキディスク)を絞める、ブレーキパッドを絞めるキャリパーのピストン中の油が、圧縮され、パッドとディスクの間隔が狭められます。この力を利用して、ブレーキディスクが結合されている車軸の回転を止めます。ブレーキパッドがきつく締め付けられると、ブレーキディスクはブレーキパッドに挟まれ、その摩擦で車輪の回転を止めます。
現代の車は、運転者がブレーキペダルを踏むと、その速さやどれだけ深く踏んだかの情報がセンサにつながれている銅線を流れて、コンピュータに伝えられます。コンピュータの中では、新しい信号が来たことが検知されると、プログラムは、それまでの計算を一旦中断します。そして、ブレーキを踏んだ速さと深さのデータを受け取り、どれだけの強さで車軸についているブレーキディスクをブレーキパッドで締め付けるべきかを計算します。計算結果は、コンピュータからデータとしてブレーキパッドを占めるキャリパーのモータへ伝えられ、モータが作動すると、ブレーキパッドが絞められて、ブレーキがかかる仕組みです。
これによって、ペダルの下のピストン、油を流す銅管、ブレーキパッドを占めるピストンなどの精密部品はなくなります。銅管は、曲げやすいのですが、簡単に折れてしまうため、その車体への取り付けは、ベテランの工員が慎重に行わなければなりません。銅管に穴が開いたり、折れたり、ピストンとの接合部分に油漏れがでると、ブレーキは利かなくなります。そのため、工場での製造の手間も多く、時間がかかります。これに比べて、銅線による配線は、誰でもできるので、工員の熟練度は要求されなくなると同時に、作業も速くなります。もちろん、部品代は、けた違いに安くなります。
さらに、最近の自動車では、運転者のブレーキ操作の癖を検知して、適切なブレーキ操作になるように、コンピュータのプログラムがブレーキパッドの締め付けの強さを変化させる学習機能も入っています。ですから、女性の力でも、男性と同じような急ブレーキができるようになります。また、急ブレーキをかけても雪道などでは、自動車のスピードを落とすことはできません。タイヤの回転が止まっても、タイヤと地面の間の雪が、自動車を道路の上を滑らせるからです。この場合、ブレーキパッドを絞めたり、緩めたりすると、ブレーキの利きが良くなることが分かっています。ですから、運転者が本能的に、ブレーキペダルを踏んだままにしていても、タイヤが滑って、自動車の速度が落ちない場合は、ブレーキパッドの締め付けを緩めたり、強めたりを繰り返す「ABS」という機能を付けています。これは、プログラムを変え、センサを取り付けるだけでできるものです。
似たようなことは、それ以前に、カメラの「自動焦点」(オートフォーカス)や「手振れ防止」などで行われてきました。カメラにコンピュータを組込んで、ファインダの中の映像を見ながら、レンズの焦点を合わせるのが自動焦点です。レンズを出し入れすることで、映像がぼけるのを検知し、できるだけ映像ボケが少ない所を探すわけです。これによって、従来は初心者の失敗が多かった「ピンボケ」を防止することができるようになり、多くの人にカメラを手軽に扱えるようにしました。このように、コンピュータを製品に組み込み、そのプログラムを使って、誰にも使い易い製品を作る技術が進んできました。