人間、道具、社会

公開: 2019年7月11日

更新: 2024年10月10日

あらまし

私たち人類の祖先が誕生する少し前、地球上には、人類によく似たネアンデルタール人がいました。彼らは、人類よりもがっしりとした体格で、背が少し低く、筋肉質で、頭蓋骨が少し大きな人たちでした。彼らも、言葉を話す能力を持ち、石器を作っていました。

2. 人間とは 〜(2) 人類の祖先とネアンデルタール人〜

ネアンデルタール人も、その頭蓋骨の分析から、言葉を使って、互いに意思疎通ができる能力があったことが分かっています。脳の中の言語を操るために使う部分が発達していたことが確かめられ、そのように考えられています。しかし、ネアンデルタール人が作っていた社会は、集団の規模が小さく、血縁のある、親兄弟とその子供たちを中心とした、家族が集団の基本だったとされています。同じ洞窟で発見されたネアンデルタール人の骨から抽出された遺伝子を調べると、それらの人々が家族であったことが分かっているからです。

このネアンデルタール人と比べると、私たちの祖先は、いくつかの家族が集まってできる村社会を作っていました。ロシアに残っている遺跡を調べると、大きな村は、100人から200人程度の数の人々で作られており、それらの人々の遺伝子には、家族とは言えない違いを持った遺伝子が見つかっているため、同じ家族には属さない血が、村の中に存在していたことが分かります。その例の一つとして、我々の祖先とネアンデルタール人との間に、混血の子供が生まれた例もありました。現代に生きる我々の中にも、2パーセントぐらいの、ネアンデルタール人の遺伝子が残っていることも分かっています。

とは言え、大きな社会を作れなかったネアンデルタール人は2万年ぐらい前には、地球上から姿を消しました。これは、我々の祖先が大きな社会を作ることができる能力を持っていたのに対して、ネアンデルタール人がそうでなかったことが影響したと言えるでしょう。一般に、動物は、生存する個体の数が数千以下になると、その種族を維持することができなくなり、絶滅します。ネアンデルタール人も、トバ火山の噴火直後には、数万人にまで減ったものの、少しその数を増やしたかもしれません。ロシアに残ったネアンデルタール人の集団の遺跡では、最初、一定数の集団であったものが、寒冷化によって、集団がヨーロッパの大集団から孤立し、数世代のうちに、人口が100人程度にまで激減し、消滅した例があったと、報告されています。つまり、ネアンデルタール人は、最終的には私たちの祖先のように数を増やすことができずに、消え去ったのでしょう。

個体数が激減すると、家族内での結婚が必要になり、その結果として、悪い遺伝子が子供に引き継がれる可能性が高くなるため、幼児が重い病気をもって生まれるなど、人口を増やすことが難しくなります。もともと、小さな家族単位で暮らしていたネアンデルタール人は、他の家族と出会う機会が減ってくると、家族内での結婚が増えざるを得ないため、長い時間をかけて、少しずつ人口を減らす結果となるわけです。このことから、我々の祖先にとっては、個体数の多い、大きな社会を作り出す能力をもつことは、大変重要なことだったのです。

(つづく)