人間、道具、社会

公開: 2019年7月12日

更新: 2024年10月15日

あらまし

人類は、軍隊を高速で移動させるために、西アジアに生息していた野生の馬を飼いならし、将軍や兵士の移動のために使うようになりました。その後、馬は、人々や荷物を運ぶために、広く飼育され、利用されるようになりました。18世紀になると、産業革命中のイギリスで、蒸気機関が発明されると、その動力を利用した蒸気船がアメリカで、イギリスで鉄道が発明され、その後イギリスを中心とした先進諸国で、人々や荷物の移動に使われるようになりました。さらに、19世紀末にはドイツでガソリンエンジンを利用した自動車が発明され、その技術がアメリカ大陸に渡って、安く、大量に生産されるようになりました。

7. 人間はどのように道具を進歩させてきたか 〜(6)馬、鉄道、自動車〜

野生の馬は、中央アジアから、東ヨーロッパに広がる草原地帯に生息していた足の速い動物でした。人間は、移動を速く行うために、野生の馬を「手なづけ」、飼育することに成功しました。今でも、シマウマのように、「気性(きしょう)の荒い」野生の馬の一種もいますが、多くは人間によって品種改良(ひんしゅかいりょう)されました。一部は、その力を利用して、人間には出せない力を利用するための馬やロバがいます。荷車を引く馬、荷物を背負って歩く馬やロバなどです。日本には、田や畑を耕す道具を引く、農耕馬もいました。もう一種類の馬は、速く駆けることができる性質を利用して、人間の長距離での高速移動を助ける手段として、数千年に渡って利用されてきた馬がいます。主に、軍事的な目的で飼育されていました。その意味で、数千年の間、人間にとって馬は、戦争のための大切な道具でもあったのです。

産業革命中の18世紀のイギリスで、ジェームス・ワットによって、蒸気機関が発明され、その回転力・動力を利用した産業機械や船の発明、鉄道システムの整備が進むと、馬よりも力が強く、より早く動くことができるため、蒸気機関が馬に取って替わるようになりました。さらに、ガソリンエンジンのような内燃機関が発明され、ガソリンエンジンが作れるようになると、ガソリンエンジンで動く自動車が、19世紀末のドイツで開発されました。そして、短期間のうちにヨーロッパ中で自動車が作られるようになりました。この自動車の開発によって、人間は馬を操るよりも簡単に、自動車を運転して、いつでも好きな所へ行けるようになりました。その自動車を、アメリカ人の実業家であったヘンリー・フォードは、分業を応用することで、大量生産し、安い価格で売ったため、またたく間に、アメリカ社会は、自動車を中心とした社会に変わってゆきました。

この蒸気機関車や自動車を開発するためには、車輪や歯車などを精密に作る技術がなければ作れません。車輪は、人類が発明したものの中でも、とても古いもので、エジプトのツタンカーメン王などが、約3500年前に戦車で使っていたことが知られています。今から、4千年ほど前の時代です。それから数千年経つと、ギリシャやエジプトでは、歯車を使う技術が生まれたようです。今から、2千年ほど前、エジプトから、多分、ローマへ向かっていた船が、ギリシャの沖にある2つの島の間の狭い海峡で、嵐のため、転覆したようです。その船には、ギリシャ人が作った機械仕掛けの道具が積まれていました。その道具が、今から数十年前に、海底から引き揚げられ、何ための機械であるかについて、研究が行われました。

最初は、その青銅製の歯車仕掛けの道具が何かは、分かりませんでした。多くの考古学者が調べ、いくつかの機械の塊が、もともとは1つの機械であったことが分かりました。それらの部品をつなげてみると、たくさんの歯車がかみ合わされていることが分かりました。その機械は、アンティキテラの機械と名付けられました。部品を集めて、ジグゾーパズルのように合わせてゆくと、1つ1つの歯車の刃の数が分かってきました。それらの刃の数から予想すると、その機械は、惑星がどう夜空の中を動くのかを示しているようでした。太陽と地球の動きを基準にして、水星、金星、火星、木星、土星がどう動くのかを時計のように、見せていたようです。つまり、当時の天文学者たちが使う道具だったようです。

このような機械は、古代ローマ帝国が分裂して、西ローマ帝国が滅亡すると、西ヨーロッパ社会には伝わりませんでした。それから千年近く、東ローマ帝国は続きましたが、東ローマ帝国の天文学者たちは、似たような機械を作り、利用していたようです。トルコ帝国が強大になって、東ローマ帝国が滅亡したとき、多くの学者や技術者、職人たちが今日のイスタンブールを離れ、北イタリアのフィレンツェなどへ逃れました。この事件が起こるまで、西ヨーロッパの人々達は、ギリシャ時代の天文学を知らず、聖書に書かれていることだけが真実だと、信じていたわけです。

(つづく)