人間、道具、社会

公開: 2019年7月12日

更新: 2024年10月12日

あらまし

古代ギリシャの哲学者、ソクラテスは、「人は倫理的に生きることが大切である。」と教えました。倫理的であると言うことは、「正しく生きること、善(よ)く生きることが、人生にとって最も重要なことである。」と信じて生きることです。それは、「正しく生きる」ことがどのようなことであるかを知っているだけでなく、それを毎日の生活で為して行き、それを成し遂げて行くことを意味しています。ソクラテスは、それを成し遂げて生きることが、徳のある生き方であると説きました。

7. 人間はどのように道具を進歩させてきたか 〜(2)正しく生きることを突きつめた哲学者〜

古代ギリシャの哲学者の中には、人間の生き方について深く考え、教える人も出て来ました。ソクラテスは、そのような哲学者として最初に有名になった人でした。彼は、人が善く生きるとは、どのようなことであるかを周囲の人々に教えました。古代ギリシャの市民は、日常、どのようにして過ごし、隣国との戦争が起こった時には、どのように戦うべきかについて教えました。古代ギリシャでは、戦争に負けた時は、勝った国の市民の奴隷になることが決まっていました。ですから、戦争に勝つことは、全ての市民にとって重要なことでした。

戦争では、強い肉体を持ち、力の強い兵士が有利です。しかし、数多くの兵士同士が混ざり合って戦う戦争では、個人個人の兵士の力よりも、兵士の集まりであるをどう動かして、相手国の軍のどの部分を攻めるかと言う、作戦を考え、指導する司令官の役割が重要になります。しかし、作戦を考えられる司令官がいても、実際に戦う兵士達が、その司令官の命令に、忠実に従わなければ、戦争には勝てません。兵士が司令官の命令に従い、司令官が、個人的な損得でなく、自分の国に勝利をもたらすことを一番に考えるとき、その軍隊は勝つことができるのです。

戦争では、全ての兵士達が、全ての戦場で勝利することは、ほとんどありません。ある戦場では自分の味方の軍が勝ち、別の戦場では味方の軍が負けるのが普通です。個人個人の兵士にとっては、勝てる戦場で戦うのと、負ける戦場で戦うのでは全く違います。最初から、死ぬことが分かっているのが、負ける戦場での戦いです。それでも、兵士達は、与えられた場所で、なるべく多くの敵兵を倒し、他の戦場で、味方の軍の勝利を確実にするように振る舞わなければなりません。

ソクラテスは、そのような兵士としても生きなければならない市民は、平素から、自分の役割を正しく認識し、その役割を全うするように生きる(戦う)ことを学ばなければならいと教えました。また、司令官として数多くの兵士に命令を出す役割の市民には、平素から、戦争になった時に、全ての兵士達が、司令官の命令を信じて戦うことが、「国の繁栄にとって必要なことである」と考えられるような生き方をしなければならない、と教えました。兵士達よりもぜいたくな生活をし、楽をしていれば、兵士達はその命令を信じなくなるからです。司令官になる人は、兵士達から、尊敬されるような人間にならなければならないと教えたのです。

それが「倫理的」な生き方であり、それができる人が「徳のある人」なのです。倫理は、何が「倫理的」であるのかを知っているだけでは不十分です。「倫理的」な行いを実際に行い、最終的には、目的を達成できなければならないのです。

(つづく)