人間、道具、社会

公開: 2019年7月12日

更新: 2024年10月12日

あらまし

現在、人間の社会は、多くの場合、支配する人々の階層と、支配される人々の階層から成る、2階層以上の構造で構成されています。そして、その社会階層は、固定化していて、上位の支配階層の家庭で生まれた人々が、社会を支配する人々となり、被支配階層の家庭に生まれた人々が、支配される人々として生きてゆく例がほとんどです。このことが、社会の硬直化を招き、社会の活性化を妨(さまた)げます。

6. 人間社会はこれからどう変わるのか 〜(5) 社会の制度は変わらなければならない〜

人間が作る社会は、農耕社会が成立して以来、社会に属する人々が、大きく2つ以上の階層に分かれて活動することが、基本になると考えられています。ハムラビ王は、高貴な人々、普通の人々、そして奴隷という3重の階層化を考えました。これは、その社会に適した人々の役割分担を決めるためには、効果的に働きます。古代バビロニアの社会では、普通の人々は奴隷を使って作物を作り、高貴な人々のために年貢(税)を支払いました。高貴な人々は、社会が安定して発展するように、普通の人々が支払うべき年貢の量を計算したり、年貢を取り立てたり、争いごとの調停をしたりしました。奴隷たちは、普通の人々に買われ、その主人の下で言われた作業をして、生活できるだけの食物や着るものをもらい、住むところを借りて、生活していました。

奴隷と呼ばれた人々が、「なぜ奴隷なのか」は問題になりませんでした。奴隷身分の親から生まれたから、奴隷なのです。このような身分制度は、世界中のどの場所でも、いつの時代にも見られました。インド社会のカースト制度、日本社会の中世の身分制度、貴族、武士、農民や職人、そして非人とされた人々から成る多重階層の制度などです。中世ヨーロッパの社会では、聖職者、貴族、市民、農奴(農業に携わる貧しい労働者)などの多重階層からなる制度がありました。ここで人々が所属する階層は、そのほとんどすべてが生まれによって決まる「きまり」でした。

民主化され、このような身分制度がなくなった現代でも、多くの社会に、伝統的に虐げられてきた人々の階層と、かつては富を独占していた豊かな人々の階層があります。そして、資本主義の国においては、今でも、豊かな富をもつ富裕層と呼ばれる人々の階層と、富をほとんど持たない貧しい人々の階層に分かれているのが現状です。この富裕層と、そうでない大多数の貧しい人の層の間には、人間の移動がほとんどなく、ほぼ固定化していると言われています。その固定化は、貧しい家庭に生まれた子供たちは、良い教育を受けることが、そうでない家庭の子供たちよりも難しく、結果として良い職業に就くことが難しいからです。良い職業に就くことができなければ、収入が低くなり、その子供たちにも良い教育の機会を与えることができません。

前述した「民主主義」の問題も、このような社会階層の問題が解決されなければ、改善することは難しいでしょう。社会の問題をしっかりと考える人々を作るためには、良い教育の機会を、全ての国民に与えることが必要になります。このように、現代の社会を制度として考えると、社会を変えなければ、人間はこれ以上進歩できません。放置すれば、人間よりも速く、深く、物事を考えられるコンピュータの方が、コンピュータよりも深く考えることが苦手な人間を、奴隷のように働かせる社会になるとも限りません。

社会は、もともと人間の祖先達が、自分達の生活を楽にするために作った、人間集団の仕掛けに過ぎないのです。決まりごとは、もともと人間達が決めたことなのです。ただ、その決まりごとを、簡単には変えることが難しくなっていることも本当です。

(つづく)