公開: 2019年7月11日
更新: 2024年10月11日
1つの人間社会の規模が小さければ、社会にある様々な物について、一つ一つの物が、誰の所有物であるのかを決めることは、難しくありません。しかし、社会の規模が大きくなると、社会にある全ての物について、誰の所有物であるのかを決めることは、困難になります。この問題を解決するために、人類は、社会的な法制度と裁判制度を整えました。
大きな倉庫に蓄(たくわ)えられた穀物の一粒一粒は、それがもともと「誰(だれ)が作り、収穫(しゅうかく)したものであるか」を決めることは簡単にはできません。山のように積(つ)まれた穀物(こくもつ)の山の中心にあたる場所の穀物は、「その辺(まわ)りの穀物の所有者(しゅようしゃ)のもの」であろうとは言えますが、二つの山の端(はし)の部分で、山と山の裾(すそ)が重なり合っている部分では、その一粒一粒を誰のものであるかを、確信をもって決めることはできません。
このような問題が、個人対個人や家族対家族間の主張(しゅちょう)の違いであるときには、第三者(だいさんしゃ)である人の仲裁(ちゅうさい)によって、誰の所有かを政治的に決定することはできます。例えば、村の村長が決めるなどです。しかし、それが大きな人間の集団と集団との間の主張の違いになると、問題は簡単には解決できません。個人間の場合であれば、「第三者」に当たる、異なる主張をする二人のどちらとも関係が薄く、中立的な立場で判断ができる人を見つけることは可能です。しかし、大きな集団同士の争(あらそ)いごとでは、そのような中立的(ちゅうりつてき)な立場に立てる人間が見つかりにくいからです。
このような問題について、できるだけ多くの人々の納得(なっとく)が得られるように解決する方法の必要性に、我々人間の祖先達は直面しました。そして、1つの基本的な決まりごとに従うことができる集団、そしてその決まりごとを個々の集団の決まりごととして受け入れられる集団の集まりを作るようになりました。個々の集団における決まりごとは、細(こま)かく決めることができますが、集団の集まりの大きさが大きくなってくると、全体の決まりごとを細かく決めると、決まりごとの数がどんどん多くなるので、決まりごとの表現は、簡単にして、基本的な考えだけを決めるようになります。
このようにして人間の祖先達が作り始めた制度が、「社会」です。そのような社会には、一組の決まりごとを明確に示した「法(ほう)」が作られます。古代バビロニアのハムラビ王が決めた、「ハムラビ法」は、そのようなもっとも古い「法」の一つと言えます。少なくとも、ハムラビ王が治(おさ)めていたハムラビ王国の社会では、その社会に属(ぞく)する人々は、「ハムラビ法」に示された決まりごとに従って、争(あらそ)い事を収(おさ)めなければなりませんでした。このような制度(せいど)を作り出すことで、人間の祖先達は、他の動物では作ることのできない巨大な集団を作り出すことができたのです。