公開: 2019年7月11日
更新: 2024年10月10日
2019年、アフリカで最新鋭のジェット旅客機が、離陸時に飛行場で墜落する事故が発生しました。当初は、単なる「パイロットの操縦ミス」が事故原因ではないかと疑われていました。その後、世界中で、似たような事故が何件か報告されました。つまり、事故原因は、パイロットの操縦ミスとは言えなくなりました。
2019年3月、アフリカ大陸にある国、エチオピアで、飛行場から離陸しようとしていた最新鋭のジェット旅客機が、急に機首を下げた姿勢で、飛行場の外の空き地に墜落しました。この旅客機と同じ型の飛行機が、その前の年、インドネシアの飛行場を離陸した直後に墜落していたため、その墜落事故の原因が何であるのかについて、世界中の専門家が注目していました。両方の事故とも、乗客、乗員全員が死亡していて、原因が分からないままになっていたからです。
エチオピアの墜落事故では、操縦室内での機長と副操縦士の間の会話が自動的に録音されるフライトレコーダが、墜落後の現場で発見されました。航空機事故の分析を担当した専門技術者達がこの装置を回収し、フランス国内の施設で、記録されていた音声を復元すると、墜落するまでの数分間に操縦士たちが何をしようとしていたかが、二人の会話から分かってきました。
音声記録で分かったことは、滑走路から飛び立った直後から、操縦士たちは飛行機の姿勢を、自分達が手にしている操縦桿(そうじゅうかん)では動かすことができないことに気づき、その飛行機を製造した会社が、事前に準備していた操縦マニュアルを見ながら、飛行機の姿勢を立て直そうとしていたことでした。最後に、機長は管制官に「機体の操縦ができない」と伝えるようにと、副操縦士に対して、無線で報告するように指示していました。
このような事実から、事故分析を行った専門家達は、墜落の原因が操縦士たちの操縦ミスではなかったと結論付けました。この「操縦士による操縦ミスが事故の原因である」とする考えは、航空機を製造した企業が、インドネシアの事故でも主張していたものでした。今回、事故分析の専門家達は、そのような航空機製造会社の説明が誤りであるかも知れないと宣言したのです。
2019年4月に入って、その航空機を製造した企業の経営責任者は、この新型旅客機に搭載されていた新しい自動操縦装置に問題が見つかったことを発表しました。それは、この新型航空機に搭載された最新鋭のジェットエンジンの出力が、予想以上に強力だったため、エンジンを全開にすると、力が出すぎて、急に機体の姿勢が上向きになり、正常に飛ぶことができなくなり、墜落するかもしれないという問題を解決するために改良した「自動操縦装置が、本当の原因である」と言うものでした。
ある意味、航空機製造会社の「パイロットの正しくない操縦」が墜落の原因であるとする主張は、必ずしも誤りではありません。この新型の飛行機は、そのように作られていたのです。パイロットは、その飛行機に特有な「改良された機能の働きを理解していなかったために、飛行機を正しく操縦できなかった」と言うのが、墜落の本当の理由です。しかし、これを「パイロットの操縦ミス」の一言で、済ませることは、正しいと言えるのでしょうか。飛行機の機首を上に向けるのに、「操縦かんを引く」と言う操作は、パイロットたちが最初から教え込まれている操作の基本だからです。
この自動操縦機能が働くと、エンジンを全開にして機首が上に向いた時、その機首がそれ以上に上を向くことがないよう、わざと機首を下に向かせます。事故が起きた時、その旅客機ではこの機能が働いていました。このため、飛行機を離陸させて、高度を上げようと、パイロットが機首を上げようと操縦かんを引いたとき、機首が上がらず、飛行機の飛行高度も上がらなかったのです。そのため、パイロットは、飛行機の操縦ができなくなったと思い、その問題を解決しようと、操縦マニュアルを見ながら、操縦の基本である、「操縦かんを引く」と言う、同じ操作を繰り返したのでした。
結果として、200人以上の人々の命が奪われました。2つの事故を合計すると、350人以上の人間の命が失われたのです。このような、新技術の導入と、我々の人間社会との関(かかわ)り、その利点と問題点について考えてみましょう。この航空機事故の根源的な問題は、飛行機の設計者たちが、パイロットが訓練によって獲得している操縦技術を理解せず、発見された機械(飛行機)の問題を解決することだけに注目して、「機首を上げるためには、操縦かんを引く」と言う飛行機の操縦の基本を無視して、新しい機能を追加したことでした。技術を利用するのは、我々人間ですが、技術は、一度、我々の人間社会に取り込まれると、それを使っている人間たちの力では、意識的にその利用を止めたりすることが難しくなる問題を持っているからです。