教育、学び、そして学校


21世紀の教育で何を学か 〜 経済開発機構の勧告

公開: 2024年3月21日

更新: 2024年7月28日

あらまし

国際連合の下部機関で、主として経済の発展と教育の問題について提言を行う、OECD(経済開発機構)では、21世紀の世界でも世界経済の発展を継続するために必要な人材育成では、@どのような資質を持った人材が求められるか、そのような人材の育成のために、Aどのような教育方法が重要になるのか、そして、Bそのような教育のための教員の人材養成をどうするか、などについて提言を行っています。ここでは、その提言の全容について検討してみます。

OECDは、参加各国において、義務教育の実態を評価するため、PISAと呼ばれる標準テストを計画、実施しています。このPISAの標準テストでも、日本の義務教育は、高い達成度を記録しています。このテストでは、同じ東アジアのシンガポール、韓国、香港なども、日本と同じように高い達成度を記録しています。ただ、全体的な評価では、オーストラリアやカナダの教育が、総合的に高く評価されています。その理由は、東アジアの国々の生徒たちの場合、定型的な問題に対する正答率は高いのですが、文章で表現された問題に対して、そこから何を問題として認識し、自分の持つ知識を整理して、妥当性の高い解答を考えて、解答を記述するという「応用的な問題」に対する正答率が、低くなる傾向があると指摘されています。

PISAの標準テストは、20世紀の工業化時代に重視されていた人材の能力を測るための、計算能力(数学)や言葉によるコミュニケーション能力(国語)などの学力達成度を評価する、知識水準を見るための標準テストに変えて、21世紀の知識産業時代の労働者に求められると考えられている、問題解決に必要な知識と、それらを活用して成果生み出すための能力を重点的に測ることに着目した標準テストを目指としています。そのため、単に学習して修得した知識だけを問うのではなく、修得した知識を応用するための基礎的な実践力を見ることにも重点が置かれています。このことが、20世紀型の標準テストでは、常に上位の評価を得ていた日本や東アジアの国々の評価は、少し下がります。それは、日本などの教育が、学習したことを記憶することに重点を置いていたからです。

PISAの標準テストを設計しているOECDが想定している、21世紀の世界経済活動で活躍する人材に求められる資質とは、OECDが2018年に発表した「2030の学びの全体像」では、教育・学習の目標を、@新しい価値を想像できる能力の育成、A組織間・地域間での緊張を緩和し、相互に相反する利益を調整する能力の育成、そして、B責任を認識し、覚悟をもって物事に対処する態度の養成、の三点に絞っています。これらをOECDでは、「生き延びる力」と呼び、これからの世界で活躍するために、最も重要になる能力であるとしています。OECDでは、この要求を満足するような教育を制度化するためには、以下の点が重要であると指摘しています。

  • 学習者に学びの必要性を認識させ、事前知識、学習する技能、学びの姿勢、何が良いことで、何が悪いことなのかの価値などを、認識できるように工夫された教育計画と教育内容
  • 良い解決案を探し出すことが容易ではなく、深く考え、どんな難問にも挑戦する態度を必要とするような演習課題を準備
  • 基礎的な問題から始め、段々と高度で複雑な思考を必要とする問題へと段階的に学び、年齢を積み重ねることで、現実的な問題に取り組めるように計画されていること

21世紀の教育で何を学か 〜 経済開発機構の勧告

国際連合の下部機関で、主として経済の発展と教育の問題について提言を行う、OECD(経済開発機構)では、21世紀の世界でも世界経済の発展を継続するために必要な人材育成では、@どのような資質を持った人材が求められるか、そのような人材の育成のために、Aどのような教育方法が重要になるのか、そして、Bそのような教育のための教員の人材養成をどうするか、などについて提言を行っています。ここでは、その提言の全容について紹介します。

OECDは、参加各国において、義務教育の実態を評価するため、PISAと呼ばれる標準テストを計画、実施しています。このPISAの標準テストで、日本の義務教育は、高い達成度を記録しています。このテストでは、同じ東アジアのシンガポール、韓国、香港なども、日本と同じように高い達成度を記録しています。ただ、全体的な評価では、オーストラリアやカナダの教育が、総合的に高く評価されています。その理由は、東アジアの国々の生徒たちの場合、定型的な問題に対する正答率は高いのですが、文章で表現された問題に対して、そこから何を問題として認識し、自分の持つ知識を整理して、妥当性の高い解答を考えて、解答を記述するという「応用的な問題」に対する正答率が、低くなる傾向があると指摘されています。

PISAの標準テストは、20世紀の工業化時代に重視されていた人材の能力を測るための、計算能力(数学)や言葉によるコミュニケーション能力(国語)などの学力達成度を評価する、知識水準を見るための標準テストに変えて、21世紀の知識産業時代の労働者に求められると考えられている、問題解決に必要な知識と、それらを活用して成果生み出すための能力を重点的に測ることに着目した標準テストを目指すとしています。そのため、単に学習して修得した知識だけを問うのではなく、修得した知識を応用するための基礎的な実践力を見ることにも重点が置かれています。このことは、20世紀型の標準テストでは、常に上位の評価を得ていた日本や東アジアの国々の評価を、少し下げます。それは、日本などの教育が、学習したことを記憶することに重点を置いていたからです。

PISAの標準テストを設計しているOECDが想定している、21世紀の世界経済活動で活躍する人材に求められる資質とは、どのようなものなのでしょう。OECDが2018年に発表した「2030の学びの全体像」(OECD Learning Framework 2030)では、教育・学習の目標を、@新しい価値を想像できる能力の育成、A組織間・地域間での緊張を緩和し、相互に相反する利益を調整する能力の育成、そして、B責任を認識し、覚悟をもって物事に対処する態度の養成、の三点に絞っています。これらをOECDでは、「生き延びる力」と呼び、これからの世界で活躍するために、最も重要になる能力であるとしています。OECDでは、この要求を満足するような教育を制度化するためには、以下の6点が重要であると指摘しています。

  • 学習者に学びの必要性を認識させ、事前知識、学習する技能、学びの姿勢、何が良いことで、何が悪いことなのかの価値などを、認識できるように工夫された教育計画と教育内容
  • 良い解決案を探し出すことが容易ではなく、深く考え、どんな難問にも挑戦する態度を必要とするような演習課題を準備
  • 基礎的な問題から始め、段々と高度で複雑な思考を必要とする問題へと段階的に学び、年齢を積み重ねることで、現実的な問題に取り組めるように計画されていること
  • 新しい学びを評価できるような、新しい評価方法や評価基準が開発され、準備されていること
  • 知識、技能(スキル)、学びの態度、学ぶべき価値観などの全体を、まとまった文脈で学び、学んだことを実践の場で応用できるように工夫されていること
  • 十分な事前情報を活用して、現実の場面で経験するような、様々な課題やプロジェクトを準備し、学習者が選択できるようにすること

このような教育のための制度や、その実践には、「ひな形」はありません。OECDでは、そのようなモデルになる実践例を収集し、各国で情報交換できるようにする予定だそうです。日本の文部科学省も、OECDが提供する情報を、適宜、新しい学習指導要領に反映する予定だそうです。

このOECDの「21世紀の学び」では、以下のような4つの技能を、教育の過程で学ぶことを求めています。それらは、

  • 考えることを学ぶ。すなわち、(1)新しい考え方を生みだす創造性を学び、それを活かして社会を変革するすることを学びます。(2)物事を批判的に考えること、問題解決の手順を理解すること、複数の解決案から最終的な解決案を選択する方法を学びます。そして、(3)自らが学んでゆくステップを学ばなければなりません。
  • 仕事の仕方を学ぶ。すなわち、(4)情報技術の利用方法を学び、活用できるようにすること学びます。(5)情報通信技術についての基礎的な知識を取得します。
  • 仕事で使う道具を学ぶ。すなわち、(6)関係者とのコミュニケーションのために利用する道具と、その道具を使って意思疎通をはかる方法を学びます。そして、(7)他の関係者との意見交換を効果的に行い、深い議論の上に、正しい合意を作り上げる手順や方法を学びます。
  • 社会生活の基本を学びます。すなわち、(8)世界の地域の特徴と国際社会で良き市民として生きてゆくための常識を身に着けること。(9)専門家としての人生の歩み方と自分のキャリアの積み上げ方についての長期的な展望を持つことの重要性を認識すること。(10)個人と社会との関係において、個人が負うべき責任感を身に着けること。

などです。OECDでは、これらを「10のスキル」と呼んでいます。

OECDでは、これらの10のスキルを身に着けるためには、以下の8つの資質を育成する必要があるとしています。

  • 言語、さまざまな記号、それらで構成される文章を、読み、構成できる能力
  • 知識や情報を収集し、問題解決のために、それらを活用する能力
  • 様々な道具や、通信などの知られているテクノロジーを利用し、目的のために効果的に使う能力
  • 他の人々と円滑に人間関係をつくり、協力して効果的に問題を解決する能力
  • 人々の間にある利害の対立を効果的に調整して、問題の解決に導く能力
  • より大きな目標に向かって、問題を分析し、採用した解決策が、他の問題を引き起こすことを未然に防ぐ能力
  • 人生設計の重要性を理解し、個人の計画づくりを実施したり、援助したりする能力
  • 人々の権利、相互にある利害の対立、個人個人の責任、個人個人の責任の限界、そして人々のニーズを表面化させる能力

OECDでは、これらの能力をコンピテンシーと呼んでいます。

これからの、21世紀の教育では、このようなOECDの勧告に提示されているような指針に基づく教育制度や、それに適合した教育指導が重要になると思われます。世界の各国では、日本を含めて、現在、そのような指針で、義務教育から高等教育までの、教育制度の見直しが進められています。

(つづく)