公開: 2022年4月2日
更新: 2022年4月18日
金融緩和策とは、中央銀行が市中で必要とされる貨幣の量を超えて、大量に貨幣を市中に供給することで、社会の中で、個人や企業が容易に資金を借りられる経済環境を整えようとする政策である。これによって、企業や個人は、将来のための投資に必要な資金を、銀行から借り入れることが簡単にできるようになる。このとき、重要なことは、銀行が資金を必要としている個人や企業に資金を貸すかどうか、個人や企業が資金の借り入れを必要と感じるかどうかである。
社会が必要としている貨幣の量を超えて、市中に貨幣を供給するため、一般的にはこの政策によってインフレーションが引き起こされる。2000年以降の日本経済は、企業や個人の間に、そのような借入資金の需要が少なかったため、政府が国家予算で財政を出動し、そのために必要な税収が不足する分を、国債の発行で補った。日本銀行はその国債を買い入れ、資金を市中に供給したのである。しかし、民間にはそれほどの資金需要がなかったため、民間の投資が増えることはなく、景気は上昇せず、経済は成長しなかった。
ここでの問題は、政府が借金を増やし、税金を投入して様々な事業を展開しても、民間に経済成長に対する十分な期待がなければ、政府の投資で民間企業は利潤を得ようとはするが、経営を拡大するための投資をすることはしないのである。事業の実施に必要な労働力は、非正規従業員の雇用などで、経費を投入するだけで、正規雇用は増加しなかった。大型金融緩和の結果、政府から事業を請け負った企業の株価は上昇したが、社会全体の経済はほとんど成長しなかった。そして政府の債務は、2年分のGDPに匹敵する額になっている。他の先進国には、なかった額である。
具体的に、日本政府は税収を上回る予算を組んで、公共投資や年金への支出や健康保険への支出を増やしてきた。税収では不足する支出には、国債を発行して対応してきたのである。日本銀行は日本政府が発行する国債の多くを買い取り、政府に資金を供給したのである。つまり、民間に資金の需要がなかったため、政府に資金を提供したのである。これによって政府の借入金は膨れ上がり、年間GDPの約2倍になっている。それでも、民間に資金の需要が高まらないため、景気は良くならない。
米国などの他の先進諸国ではどうだったのか。中央銀行が金融緩和で大量の資金を投入し、低金利でその資金を利用できるようになると、多くの金融機関は、中央銀行が供給した資金を銀行から、低金利で借り入れ、証券取引所で株を購入した。この株買いによって、リーマンショックで一気に下がった株価は、少しずつ上昇し、ニューヨーク証券取引所では、リーマンショック前の平均株価を大きく超えて、史上最高額を記録した。現在は、歴史的な高値で、35,000ドル前後になっている。これは、株価のバブルが起きていると判断される状態である。米国の中央銀行は、2022年になって、歴史的な株高と、物価の上昇を見て、長期金利を上げてゆく、金融引き締め策に転換した。これによって、日米の長期金利の差が大きくなり、現在、日本円がドルなどの通貨に比較して、安くなっている。