公開: 2022年4月6日
更新: 2022年4月18日
日本社会では、企業に就職する人々は、特定の専門分野の知識を使って仕事をすることを期待されていない。就職する人々に期待されているのは、その企業の社員として、定年まで一生働くことである。そのため、企業側は、基本的に従業員(社員)に特定分野の専門知識を求めることはない。そのような専門的な知識は、入社後の企業研修などを通して身につけるのである。新入社員に期待されていることは、そのような企業研修などを通して必要な知識を学べる基礎学力である。
この終身雇用の制度は、専門知識を教えることが難しかった日本の大学教育の弱点を補う上でも必要であった。また、世界的にも知識の専門化が進んでおらず、企業研修でも学べる水準であったため、この終身雇用制による企業の人材育成も、大きな問題なく機能した。さらに、技術革新によって、必要な知識が変化する速度が速くても、従業員を解雇して、新しい従業員を雇用(採用)する必要がなくなるため、人事を円滑に進めることができる。特に、同じ人材を長期に渡って雇用するため、社員の企業への忠誠心を高く保つこともできる。
このような終身雇用制に近い雇用制度を導入している社会は、日本以外にはほとんどない。しかし、社会全体が安定していて、順調に経済成長しつつある社会では、利点の多い制度である。しかし、技術進歩の速度が速い最近の世界では、従業員の専門性の高さが企業の競争力に直結する。そのような環境では、専門外の人材を再教育するよりも、専門家を採用して仕事に就かせる方が、効率的である。このため、最近の世界では、日本企業の技術力が、世界の他の国々の企業の技術力との競争に勝てないようになりつつある。これに対応するためには、大学教育を、専門知識の教育に特化させなければならず、社会全体での対応も必要になる。