人工知能 〜 機械学習は、どこまで信用できるか


提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

更新: 2025年7月11日

あらまし

人間が、形而上学的な問題を、どのように考えて来たのかについて、古代ギリシャから近代の哲学者が、考えて来た道筋をたどってみます。その第一歩は、古代ギリシャの哲学者たちが議論した問題です。その最初が、哲学者のソクラテスが提起した「善(よ)く生きる」と言う、倫理的な問題でした。

ソクラテスが提起した命題

古代ギリシャにおいて、重要なことは、3人の哲学者が、その後の人間社会に、大きな思想的な影響を与えたことです。その最初に、出現したのが、古代ギリシャのソクラテスです。現代では、ほとんどの人が、知っている有名な哲学者です。私の目から見ると、ソクラテスは、「人間は倫理的に生きなければならない」と説いた、最初の哲学者です。「倫理」とは、現代の英語で言うethicsの語源、ギリシャ語の「エチカ」と言う言葉で表現される概念です。ソクラテスは、その概念の意味を、数多くの例を示して、古代ギリシャの市民に説明しました。当時のギリシャ社会は、市民と奴隷から構成される、階級社会で、市民階級は、他の都市国家との戦争の時、兵士として兵役に就き、平時には、都市国家の政治家として働いていました。


図2. ソクラテスが提起した命題

ソクラテスは、そのような社会的な役割を担っていた市民は、都市国家の兵士として戦うときも、政治家として働かなければならないときも、自分の使命と責任を明確に理解し、与えられた任務を達成するように、行動しなければならないことを、教えました。特に、戦場では、自分の隣人である人が下す命令には、その人が子供の時からの友人であったとしても、その命令の意図を汲み取って、勝利のための最善の行動を採らなければなり交ぜん。それは、自分が直接、指揮をしている部隊が、「おとり」としての行動を命じられ、多くの兵士が死ぬ運命にあったとしてでもです。

古代ギリシャの社会では、日々の生活のための労働は、奴隷たちに命じて行っていました。その奴隷たちは、過去の戦争で負けた国から連れてこられた、自由のない人々です。このことは、奴隷の仕事が、単純な肉体労働に限ぎられることを意味しているものではありません。奴隷の中には、計算など、長い時間がかかる知的な仕事に従事していた人々もいました。ただ、奴隷には、自分たちの仕事を選ぶ権利は、与えられていませんでした。奴隷たちは、命じられた仕事を、命じられたように行わなければなりませんでした。従って、奴隷たちには、倫理的に生きることは、要求されていませんでした。

「倫理的に生きる」とは、一人一人の市民が、自分が所属している社会から、期待されている行為を行うことを言います。つまり、個々の市民は、「社会が、自分に何を期待しているのか」を知っていなければなりません。そして、その期待に沿うような行為を、与えられた状況の中で正しく選択し、実践し、その期待に応えなければなりません。それは、仮に、その行為を行うために、多大な自己犠牲を伴うとしてでもです。

しかし、もし、社会がその人に期待している行為の基となっている目的を、達成することが困難であるとすれば、その行為に着手することは、無駄なことなので、中止すべきであると、ソクラテスは説きました。ソクラテスは、行為を実行し、その目的を達成することが重要であると、考えたのでした。行為を実行しても、その目的を達することができないならば、その行為に変えて、より目的を達成できる可能性の高い行為を考えなければならないとしました。

例えば、川仁落ち、溺れかけている子供を見たとき、その子供を助けようと、自分が川に飛び込んで助けようと考えるのではなく、自分の力で泳ぎ、子供を助け、川岸まで泳いで連れて来ることができるかを考え、それが困難であるとすれば、誰か、泳ぎの上手な人を見つけ出し、助けてもらうように頼むことの方が、正しい行動だと言えるからです。