経済のグローバル化とアジャイル開発の必然性

公開: 2021年10月16日

更新: 2021年10月16日

あらまし

議論の主題

著者は、「経時的に変化する製品の品質」と題した小論において、製品の品質に対する利用者の要求や評価が、時間の経過とともに変化する本質的な傾向があることを議論した [大場充, 経時的に変化する製品の品質, 2017]。これは、経済のグローバル化の進展によって、その変化の速度が速まっているため、変化する利用者の製品の品質に対する要求をどのように捕らえ、そして認識された新しい要求に応えられるように製品の開発・生産・保守のプロセスをどう再構築すべきかの課題を、21世紀の企業組織に対して提起していることを意味する。

20世紀の最後の10年間で、世界的に社会は急速に不安定化した。それは、政治的にも経済的にも、である。このことは、我々が社会の将来がどのようになるかを予測することを困難にさせた。この予測不可能性は、20世紀後半までの国内市場を中心として発展した産業化社会においてはなかったことであり、人類にとって初めての経験である。この未経験の状況において、企業がどのように対応すべきを決定するとき、その意思決定には大きな誤りリスクを伴う。

企業の経済活動においては、この意思決定に伴うリスクに対応するリスク管理の方法が必要となる。そのリスク管理の基本的な方法として、人類がローマ時代から実践しているものに「分割統治」がある。その分割統治の方針をソフトウェア開発に応用した方法として、1970年代の終わりに提案された「段階的開発」である。この段階的開発の理論を現実のプロジェクトに適用しようとしたソフトウェア開発の実践論に「アジャイル開発」があり、最近、注目されている。

本小論においては、このアジャイル開発の基本となっている段階的開発法が、要求の変化のリスクが想定される状況においては、合理的な選択であることを論じる。すなわち、アジャイル開発は、経済が急速にグローバル化している社会においては、必然性があることを示す。そのために、本小論の議論においては、プロジェクトマネジメントで広く利用されているPERTをモデルとして利用し、従来型の開発法であるウォーターフォール型開発と新しい開発法であるアジャイル開発とを比較し、その利点・欠点を論じる。

(つづく)